写真:認知症写真はイメージです Photo:PIXTA

超高齢社会ニッポンに久々の朗報だ。厚生労働省は8月21日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病の原因物質を除去する新薬の製造販売を承認した。新薬の名称は「レカネマブ」で、年内にも流通する可能性があるという。この薬は発症早期の患者向けであり、進行したアルツハイマー病には有効ではない。となると、早期発見、早期投薬開始のために、「脳の健康状態のチェック」が重要である。認知症の最新情報を追った。(コラムニスト 坪井賢一)

長寿ニッポンは認知症大国まっしぐら

 日本人の平均寿命(2022年)は男性81.05歳、女性87.09歳――。長寿社会ニッポンでは、高齢化と平行して認知症患者も増加している。年齢を重ねればだんだんと脳細胞は死滅していくので、認知機能が衰えるのは当然のこと。日本は、認知症大国に向かっている。

 認知症とひと口に言っても、原因は実にさまざま。厚労省の資料によると、認知症の種類は多い順に以下のような分類だ。

・アルツハイマー病(67.6%)
脳内にたまる異常なタンパク質が神経細胞を破壊する

・脳血管性認知症(19.5%)
脳梗塞・脳出血が原因で脳細胞に十分な血液が供給されずに発症する。高血圧・糖尿病などに起因する

・レビー小体型認知症(4.3%)
脳内にたまるタンパク質、レビー小体が神経細胞を破壊する

・前頭葉側頭葉型認知症(1.0%)
前頭葉・側頭葉の神経細胞が減少し、脳が萎縮して発症する

・ほかアルコール性、混合型など(7.6%)

 アルツハイマー病を引き起こす原因タンパク質を「アミロイドβ(ベータ)」という。新薬のレカネマブは、「アミロイドβが固まる前の段階で人工的に作った抗体を結合させて神経細胞が壊れるのを防ぐ仕組み」だという(Science Portalによる※注1)。

 アミロイドβは通常、短期間で脳内から排出されるそうだが、アミロイドβが結合して異常な状態になると蓄積し、神経細胞の機能を破壊する。これがアルツハイマー病の仕組みだそうだ。

 アミロイドβが取り付いて神経細胞の破壊が進んでいくと、この新薬で死滅した細胞を復元することはできないので、早期の患者、あるいは認知症の前段階である軽度認知障害(MCI※注2)だけに有効だというわけだ。

 それにしても、認知症の7割近くがアルツハイマー病であり、その原因物質を除去できる薬が誕生するとは、長年の研究開発の大きな成果であり喜ばしいことだ。しかし、日本の認知症患者がどれほど増加するのか、その数字を改めて追うと、喜んでばかりもいられない。