後悔しない認知症#1Photo:PIXTA

家族も本人も認知症になったことを受け入れられない発症早期、症状が進み失禁やせん妄、徘徊への対応に振り回される中期……。介護する家族はじわじわと追い詰められ、逃げ場をなくす。虐待に至るケースもある。介護で落とし穴にはまらないためのヒントはあるのか。特集『決定版 後悔しない「認知症」』(全25回)の#1では、現場をよく知るケアマネジャーと介護当事者に本音を聞いた。(聞き手/医学ライター・井手ゆきえ)

家族による認知症高齢者の虐待が増加
「加害者の4割は息子」の介護現場

参加者
Aさん:首都圏の居宅介護支援事業所の管理者、ケアマネジャー
Bさん:同じ事業所に勤務する主任ケアマネジャー
Cさん:在宅療養支援診療所のマネジャー。地方に住む母親を5年間遠距離介護し、その後の5年間、自宅に引き取り看取った経験がある。

――高齢者虐待防止法に基づく調査(2020年度)はショッキングな現実を明らかにしました。同居する家族に虐待されていた要介護認定者1万1741人のうち、認知症がある高齢者は1万0534人で9割近くを占めました。被害者と加害者の関係を見ると「息子」が4割を占め、次いで「夫」が2割と圧倒的に男性が多い。現場の印象はどうですか?

Aさん 単身の子世代が介護に入る場合、女性の方が「自分の生活を守る」意識があり、「ながら介護」や「遠距離介護」でうまく互いの生活圏を侵さない距離を取れる一方で、男性は離職をして介護に没頭するケースが多いですね。また、認知症の症状が出始めた頃は、親子同士でも「もしかしたら、認知症?」という不安を口にできません。親を認知症と認めなくない気持ちから「うちの母は大丈夫です」と介護サービスを拒んでいる間に、あっという間に悪化することは珍しくはない。「こんなはずではなかった」「こんな親ではなかった」というショックの反動で、強い言葉のやりとりがエスカレートする時期を経て、ようやく「認知症」を受容できるようです。

Cさん 私の場合は地方で一人暮らしをしていた認知症の母を、5年間の遠距離介護を経て自宅に引き取りました。遠距離介護のときは、住環境をバリアフリーにして訪問看護もヘルパーも入れてね。ところが、年に数回てんかんの発作が起きるようになり、万が一の可能性が出てきた。それと火の不始末や夜中の徘徊、せん妄が重なって「ああ、もう一人暮らしは危険だ」と家内に頭を下げました。ただ、そこからがね……。もう、予想もしないことが次々と。こればかりは、一緒に生活をしてみないと分からんね。

Bさん 実際、正解はないですよね。