習近平の発言に反映された
米中関係への「3つの思惑」
「中米関係は世界で最も重要な二カ国間関係だ」
10月9日、中国を訪問中の民主党の上院議員シューマー院内総務率いる超党派議員らと会談の冒頭で、習近平国家主席がこのように切り出した。
本音であり、本心だろうが、筆者の理解によれば、中国の最高指導者や外交の統括者が、公の場でこのように断言するのは珍しい。中国という国家、中国人という国民は、日頃の対外関係、対人関係において、断定的な言い方を避ける傾向にある。退路が断たれたり、第三者に嫌われたり、敵を作ったりしてしまいかねないという観点から、婉曲的な表現をすることが多いのだ。曖昧さを良しとする傾向のある日本人にならよく分かる心境であろう。
習近平はさらに次のように続けた。
「中米両国がどう共存するかは、人類の前途と運命を決定する。競争や対抗は時代の潮流に符合しないし、本国の問題や世界が直面する課題の解決にもならない」
「中国側は、中米共同の利益は相違や対立点よりもはるかに大きく、中米それぞれの成功が相手国に与えるのは契機であり課題ではないと終始考えている。“トゥキュディデスのわな”は必然ではなく、広い地球は中米それぞれの発展と共同の繁栄を完全に収納できる」
この発言には、3期目入りした習近平政権が抱く3つの考えが反映されていると筆者は見る。
一つ目が、世界で最も重要な二カ国間関係である米中関係次第で、国際政治や世界経済はどうにでも変わるという考え。
二つ目が、対立点ばかりに焦点が当たる米中であるが、中国としては対米関係を安定的に管理したいという考え。
三つ目が、米国との競争、若干誇張して言えば、覇権争いは(アジア太平洋といった限定された地域に限らず)「地球規模」のものであり、中国はそこに挑む覚悟があるという考え。
「トゥキュディデスのわな」というのは、古代アテナイの歴史家トゥキュディデスにちなむ言葉で、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで衝突する現象を指す。紀元前5世紀のスパルタ(従来の覇権国家)とアテナイ(台頭する新興国家)が必然的に戦争に陥る構造にあり、それはその後発生した戦争の原因を説明する上でも示唆に富んでいるとする言説。米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が作った造語でもある(参考著書:『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社、2017年11月)。
米国という従来の覇権国家に中国という台頭する新興国家が挑戦する構造は、必然的に戦争を引き起こす構造にある、少なくともそのリスクに各国・各企業・各国民は備えなければならないという警告をアリソン教授は鳴らしたわけであるが、習近平は「米中がそのわなに必然的にはまるとはいえない」と反駁したということである。ただ興味深いことに、「(わなに)陥らない」とは断言していない。中国が、台湾海峡を含めて、米国との戦争に備えているのは疑いない。