イスラエルの地図Photo:pavalena/gettyimages

10月7日に突如として始まった、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム武装組織ハマスと、イスラエルの大規模衝突。ジャーナリストの池上彰氏は「その兆候はあった」と言う。長くイスラエル取材を重ねる増田ユリヤ氏と対談した。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

9月30日号の「週刊ダイヤモンド」掲載の連載をもとに再構成しています。

突如として始まった
イスラエルへの大規模攻撃

池上 10月7日早朝、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム武装組織ハマスが、イスラエルに向けて数千発のロケット弾を発射。ハマスの戦闘員がイスラエルに侵入して南部を襲撃しました。イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争状態にある」としてガザ地区に激しい空爆を行い、これまでに双方の死者数はあわせて2100人を超えています(10月11日現在)。

 ハマスによる攻撃は前例のない規模ですが、その兆候はありました。

増田 8月の時点で国連はイスラエルとパレスチナ両国の暴力の応酬で「死者数が近年で最悪の水準に達した」と発表していました。

池上 イスラエルは7月3日にパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区の北部の地域・ジェニンに過去20年間で最大規模の軍事作戦を実施しました。無人機による空爆も行われ、パレスチナ人10人が死亡したと報じられています。

パレスチナ人居住地に
イスラエル人が「入植」

増田 ジェニンはA地区と呼ばれる、行政権・警察権共にパレスチナ自治政府が管轄している地域。パレスチナ自治区にはこうしたA地区のほか、行政権はパレスチナ自治政府、警察権はイスラエルが握っているB地区、双方をイスラエルが管理しているC地区と三つの地区があります。

 本来はパレスチナ人のみが住むはずの自治区に、イスラエル人が「入植」、つまりパレスチナ人居住地を侵食しており、イスラエル政府も国民保護の建前で支配を拡大している実態があります。

 さらにイスラエルは分離壁と呼ばれる8メートルもの壁を設置。現地で実際に見ましたが、まさに分断を象徴する建設物です。

駐日イスラエル大使の見解は
「テロは徹底的につぶす」

池上 7月のジェニンにおける軍事作戦もイスラエルは「ジェニンにテロリストが潜んでいる」「パレスチナ自治政府が機能していないためにイスラエルの安全保障上の脅威が高まっている」として攻撃を実施。攻撃目標になったのは、パレスチナの難民キャンプ内の軍事施設です。

 イスラエルに言わせれば難民キャンプに潜むテロリストを逮捕する際に激しい銃撃戦となり、後から突入したイスラエル軍が撤退する際の安全を守るため空爆を行った、というわけです。しかしパレスチナからすれば、そこにイスラエル国民がいることがおかしいからこそ攻撃している、と。

増田 空爆後に駐日イスラエル大使に取材したところ、「今回の軍事作戦は空爆ではなく、イスラエル軍の撤退支援。被害を受けた民間人には申し訳ないが、テロは徹底的につぶす」と言っていました。

 難民キャンプといっても、パレスチナ人からすれば元々は自分たちが住んでいた土地。戦争ですみかを追われたために、結果的に難民化を余儀なくされた人たちです。イスラエルは難民キャンプだけでなく、パレスチナ自治区の学校や病院などを攻撃しており、これは国際法違反。しかしパレスチナ側のテロリストが病院や学校に潜んでいるのも事実であり、複雑な状況があります。