「1駅歩くようにしたくらいで―」。以前、友人にそう言われて、一笑に付されたことがあります。
友人は40代半ばのビジネスマン。多忙と運動不足でお定まりの中年太り。メタボリックが気になるというので、「会社の行き帰りに1駅途中下車して歩いたら」とすすめたところ、返ってきた言葉がこれだったのです。
少々ムッとしましたが、残念ながらそれ以上強くすすめる説得材料もなく、そのまま話はうやむやになってしまいました。
その直後のこと。友人の態度に何となくわだかまりを抱えていた私におあつらえ向きのサプライズが。2007年5月に開かれた日本糖尿病学会で、内容もズバリ「通勤時の歩行時間が長いほど2型糖尿病の発症リスクが軽減される」という研究報告がされているのを見つけたのです。
報告したのは大阪市立大大学院医学研究科の佐藤恭子氏らの研究グループ。それによれば、2000年度に健康診断を受け、糖尿病が確認されなかった40~55歳の男性8576人を追跡調査。通勤時の歩行時間と糖尿病の発症率との関係を解析したところ、次のような結果が明らかになったといいます。
4年間の追跡で糖尿病を発症した人は約1割にあたる878人。そのうち片道歩行時間が10分以下のグループの発症率を100とした場合、11分以上20分以下のグループは86、21分以上のグループは73。
通勤時の歩行時間が長いほど糖尿病の発症リスクは軽減されていると報告は結ばれていました(年齢や喫煙習慣、家族歴、空腹時血糖、運動習慣など他の条件も補正済み)。
歩くことが糖尿病の予防に有効であることが、改めて確認されたわけです。
さっそく件の友人に「どうだ!」とばかり電話で報告。私の執念深さに呆れながらも、どうやら今度は彼も少しはその気になったようでした。
竹内有三(医療ジャーナリスト)