病気になりにくい体をつくるにはどうすればいいのでしょうか? 栄養バランスの取れた食事や運動習慣などがパッと思いつきますが、『健康になる技術 大全』の著者・林英恵さんは「あまり知られていないが、じつは健康と感情は密接な関係にある」と指摘しています。
そこで本稿では、読者から「健康関連本としてはブッチギリのベスト」「一家に1冊置いておくべき」と話題を呼んでいる、最先端のエビデンスをもとに「健康に長生きする方法」を伝授した本書から一部を抜粋・編集して、「プライド」と「人間の行動」の関係性を解説します。
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
健康に大きな影響を与える「感情」
健康になるために大切なものは何かと聞かれたら、みなさんは何と答えるでしょうか? たばこなどの悪習慣をやめること、栄養のある食事をとること、体を動かすこと、きちんと休むこと、などが挙げられると思います。
実は、これらの健康に関わる行動「すべて」に大きく関係しているものがあります。それが、「感情」です。自分の意思で決めていると思っている健康の習慣や行動は、周りの環境という外的な要因だけでなく、感情という内的な要因によっても影響を受けているのです。
一般的に、ポジティブな感情は、健康や健やかな暮らしに影響があり、逆に慢性的な怒りや心配、敵意などの感情は、血圧の上昇や心拍数の増加との関連の可能性が指摘されています(*1,2)。
誰もが赤ちゃんの頃から持っているといわれる感情。しかし、健康の「習慣」にとって良い感情とあまり良くない影響を与える感情があることは、あまり知られていません。ここからは、健康的な生活の鍵となる「プライド(誇り)」について、解説します。
「プライド」を持つと我慢強くなる
健康になるためには、自分に誇りを持つことや自尊心を持つことが大切です。日本語では「プライドが高い」など、「プライド」という単語をネガティブに使うことがありますが、ここで意味するプライドは「誇り」というポジティブな言葉の意味に近いと思ってください。
「誇り」の感情を持つことで、1つには面倒な仕事に対しての我慢強さが増すことがわかっています(*3)。自分自身に誇りを感じている場合、何かに対して前向きに頑張ることが、自分自身へのインセンティブ(動機づけ)となるためです。
また、自分の頑張りとその結果を周りの人に認められることが、さらなるやる気となり、期待される結果を出そうという力が働くようです(*4)。
身近な人の誇りの感情を湧かせるためには、ほめたりすることで人の努力を認めてあげることが重要です。研究は途上ではあるものの、健康に関する効果に関しては、「誇り」は定期的な運動、食事、性生活などの分野で、健康的な生活を送るために鍵となる感情の1つとされています。
「自分に誇りを持てない人」は、とっさに周りに合わせた行動をとる
さらに、「誇り」が与えるもう1つの効果として、自分自身に「誇り」を持つことで、人と違う行動をとることを恐れなくなり、より自分のことを優先的に考えるようになる可能性があるといわれています(*5,6)。
特に、日本人のように、言動を周りに合わせたり、他人に遠慮しがちな行動をとったりしやすい社会では、重要かもしれません。自分自身を誇りに思い、大切にしようという気持ちがあれば、無茶なことや、危険なことからは自然に遠ざかるようになることは、感覚的にもイメージしやすいと思います。
健康の習慣に影響を与える要素の1つとして、ある行動をとった時に周りが自分のことをどのように考えるか、周りはどのような行動をとるのかという「規範(norm・ノーム)」が重要なことがわかっています。
例えば、多くの人がたくさんお酒を飲む飲み会にいるとします。自分がお酒を控えたいと思っていても、周りにどう思われるか、周りの人がどう振る舞っているかが気になってしまう。
そして、結果として、周りに合わせてお酒を多量に飲んでしまうことが起こります。これはまさにこの「規範」の作用です。規範は、自分の行動に知らず知らずのうちに影響を与えます(*7)。
私が、たばこを吸う大学生にインタビューをした時も、1人でいる時はたばこを吸わないのに、飲み会で喫煙者と一緒にいると、特に強制されたわけではなくても、なんとなくたばこを吸ってしまうという人が多く見られました。
「誇り」は、そんな時にも力を発揮する可能性があります。というのも、前述の通り、自分自身に誇りを持つことで、人との違いが気にならなくなるので、人に合わせなくても大丈夫だと思えるようになるためです(*3,5)。
「誇り」の感情を高める方法とは?
周りの人がどう思うか、何をしているかにかかわらず、「誇り」は、「自分にとって本当に必要だと思うことを行動できる力」を与えてくれるのではといわれています。そんな誇りの感情は、どうやって生み出したら良いのでしょうか?
「誇りを持て」と言われても、具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。ただ、日常生活の中でも、ちょっとしたことで自分を誇りに思えるようなきっかけは作れます。例えば、スポーツやゲームの大会で勝ったとか、卒業など(*3)。
何かをやり終えた時にお祝いするような機会も良いでしょう。家族や友人などの行動を変えるきっかけとして、本人が誇りを感じるような出来事があった後に、健康になるような習慣をそれとなく勧めてみる、というのも手です。
「誇り」を感じられるきっかけに共通しているのは、「何かをやりとげた」という成功体験です。小さなことでも良いので、ぜひ1日の終わりに、大小かかわらず、日々の中で何か自分を認めてあげられるようなことを思い出してみてください。
(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)