近年、肉は種類によって病気のリスクを上げることが示唆されています。では、どんな肉に気をつけたほうがいいのか? 食べるとしたらどの程度だったら大丈夫なのか?『健康になる技術 大全』の著者、林英恵さんに、肉が病気のリスクを上げることがエビデンス的にどこまでいえるのか? 肉以外でたんぱく質を確保するには、何を食べたらいいのか、について述べていただきました。
本連載では、「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修
病気になりたくなかったら、取らない方がいい肉とは
肉といえば何を連想しますか? 食べ物に関するイメージは強力です。豊富なたんぱく源であることから、スタミナ源や、元気が出る食材として肉を思い浮かべる人も多いのではないかと思います。
近年、肉は種類によって病気のリスクを上げることが示唆されています。
WHO(世界保健機関)にあるIARC(International Agency Research for Cancer)というがんを専門に研究する機関が、2015年に、加工肉は発がん性があり、赤肉はおそらく発がん性があると発表しました(*1)。
加工肉は、1日あたり50g摂取するごとに、大腸がんのリスクが18%増加する
加工肉に関しては、1日あたり50g摂取するごとに、大腸がんのリスクが18%増加すると推定されています(*5)。
赤肉に関しては、加工肉ほどの強いエビデンスは見出されなかったものの、1日あたり100g摂取するごとに、大腸がんのリスクが17%増加すると推定されています(*2)。
同様の推定をした、もう1つのがんの国際的な研究機関WCRF(World Cancer Research Fund)は、赤肉は多くても、料理後の重さで1週間に350~500g以上は食べないこと、また加工肉は、食べるとしたらほん少しだけにとどめることを勧めています(*3)。
脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化による循環器疾患や糖尿病のリスクも高くなる
赤肉に関しては、栄養価が高いながらも、大腸がんのリスクを上げる恐れがあり、赤肉で得られる栄養素は、他の食べ物からも得られると報告しています。また加工肉については、脂肪や塩が多いために、栄養学的には価値がないと述べています(*3)。
大腸がん以外にも、赤肉と加工肉の摂取が多い人ほど、脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化による循環器疾患や糖尿病のリスクが高いことが認められています(*4,5)。
国立がん研究センターでは、このような結果や肉の摂取量の動向を受けて、①日本人の平均的な摂取範囲であれば、赤肉や加工肉はリスクとなる可能性はないか、あっても少ない(*6)、②しかし欧米より少ないとはいえ、アジア・日本での肉の摂取量は増えている(WHO推奨の肉の摂取量週500gに対して、日本の研究でも多いグループでは週400~450g以上を摂取)(*7)、③日本でも大腸がんは戦後欧米並みに増加という理由から、「日本人の食生活でも、肉類を極端に多く食べるような習慣は、大腸がんのリスクが高くなる可能性がある」(*8,9)と述べています(*8,10)。
ちなみに、日本では大腸がんは2019年で死亡数第1位、2021年で死亡数第2位のがんです(*11)。
たんぱく質を確保するには、何を食べれば良いのか?
赤肉や加工肉を減らしつつ、たんぱく質の摂取を意識したい場合には、動物性たんぱく質であれば鶏肉・魚・卵を考えるのが良いでしょう。
植物性のものでは、大豆食品(豆腐や納豆、味噌など)、穀物(米・麦・そばなど)、種実類(ごま、ピーナッツ、アーモンドなど)、豆類(大豆やあずき、ひよこ豆など)が挙げられます。
大豆ミートなど、植物由来のものを使ってできた肉の代替品に関しては、植物性のたんぱく質を使用していて肉よりも健康に良いというイメージで売られているものも多いです。植物性のたんぱく質摂取は、健康にポジティブな影響があることが報告されているので(*12)、概念的には健康に良さそうではありますが、実際、肉の代替品としてのエビデンスとしては限られています。
実際、塩やココナッツオイル、パームオイルなどが添加されているものもあるので、肉の代替品として食べる場合は、原材料に注意しましょう。
【参考文献】
*1 World Health Organization. IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat. Lyon, France,: International Agency for Research on Cancer(IARC); 2015.
*2 Bouvard V, Loomis D, Guyton KZ, Grosse Y, Ghissassi FE, Benbrahim-Tallaa L, et al. Carcinogenicity of consumption of red and processed meat. Lancet Oncol. 2015;16(16):1599-600.
*3 World Cancer Research Fund International. Meat, fish and dairy and the risk of cancer. [cited 2021 Dec 18].
Available from: https://www.wcrf.org/dietandcancer/meat-fish-and-dairy/.
*4 Schwingshackl L, Schwedhelm C, Hoffmann G, Lampousi A-M, Knüppel S, Iqbal K, et al. Food groups and risk of all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Am J Clin Nutr. 2017;105(6):1462-73.
*5 Papier K, Fensom GK, Knuppel A, Appleby PN, Tong TYN, Schmidt JA, et al. Meat consumption and risk of 25 common conditions: outcome-wide analyses in 475,000 men and women in the UK Biobank study. BMC Med. 2021;19(1):53.
*6 国立研究開発法人国立がん研究センター. 赤肉・加工肉のがんリスクについて. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1029/index.html.
*7 Takachi R, Tsubono Y, Baba K, Inoue M, Sasazuki S, Iwasaki M, et al. Red meat intake may increase the risk of colon cancer in Japanese, a population with relatively low red meat consumption. Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20(4):603-12.
*8 国立研究開発法人国立がん研究センター. 赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://epi.ncc.go.jp/jphc/584/2870.html.
*9 国立研究開発法人国立がん研究センター. 2011/11/28 赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://epi.ncc.go.jp/jphc/584/2870.html.
*10 国立研究開発法人国立がん研究センター. 最新がん統計 がん登録・統計大腸がんの死亡及び罹患. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html.
*11 国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
*12 Song M, Fung TT, Hu FB, Willett WC, Longo VD, Chan AT, et al. Association of animal and plant protein intake with all-cause and cause-specific mortality. JAMA Intern Med. 2016;176(10):1453-63.
(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/