「変な球」はときにスルーして、
あえてキャッチしない、という護身術
米田:今は誰でも自分の意見を簡単に発信することができる時代です。少し前までは特定の人しか許されなかったさまざまなものがデジタル化し、どんどん民主化していっています。なので、経済的にも環境的にも先行きに不安はあるものの、ある意味、みんな1人1人が等身大で自分の人生をデザインしていけるようになってきたなと僕は思っているんです。それは、例えば「一流企業に入って、35年ローンで家を買って、1社を定年まで勤め上げる」といった生き方だけが善とされてきた頃と比べると、とてもいい時代だなって。
伊藤:自由に何でも選べるし、誰とでもつながれる。そういう時代に生きていられるのは幸せですよね。
米田:だから将来に対して、僕はそれほど悲観することはないんじゃないかなと思っているんです。莫大な資本とか専門性がなくても、やる気やセンスがあれば、ネットショップでビジネスをしたり、コンテンツをつくって自己表現したり、いろんなことをやれる可能性が広がっているわけですから。
これからみんな、ますます自分をコンテンツ化したり、メディア化したりしていくでしょうけれど、これまで9年間もブログやソーシャルメディアで活躍されてきたはあちゅうさんから、多くの人々に情報を発信し、彼らとつながるうえでのアドバイスってありますか?
伊藤:ときによっては、「あえてキャッチしない」という技を磨くということかな。変な球がきたら受けないようにスルーする、というか。たとえば嫌なことをブログで書かれたりしたとき。ケースバイケースで対処法が違うとは思うけれど、とにかく全部の意見をまともに受けていたら、体も心も持たないじゃないですか。
米田:とても持たない。でも、僕は全部の意見を聞こうとしちゃうところもあります(笑)。でも、はあちゅうさんはそこは柔軟でしなやかなんですね。
伊藤:反響や共感が多いとうれしいけれど、かといって全員に好かれることは絶対にないんですよね。ブログやソーシャルメディアを長く続けていると、炎上とかも何度か経験してきましたし。
米田:ああ、それは「2対6対2」の法則ですね。10人いたら必ず2人が自分のことを好きになってくれて、2人は嫌いだという法則です。そして残りの6人はどっちつかず。でも嫌いだという2人の反対意見が目立っちゃうから、途中からどっちつかずの6人もそっちになびき出して、結局8対2で嫌いだという人が多くなる。炎上って、まさにその状態じゃないですか。少数派のネガティブな意見に全体が引っ張られてしまう。
伊藤:確かに、そうかもしれない。私に共感してくれる人には、話し方からライフスタイル、見た目まで、全部好意的に受け取ってもらえるんです。でも、嫌いな人には顔も話し方も全部マイナスに映る。私、実はすごく外見のことで叩かれた時期が長かったんです。2004年ってまだブログで顔を出している人が少なかったから、それだけでまず叩かれて。グーグル画像検索でブス1位になったこともあるんですよ。
米田:ひえー!そんなことがあったんですか。それは精神衛生上、かなり堪えるはず。男の僕でも、ブサイク1位になるのはやっぱり嫌ですよ(笑)。
伊藤:でも、18歳なりに、そのことをきっかけに悟ったんですよね。要は個人的な好き嫌いだけの問題だし、その日の気分にもよる。だからあまり振り回されないようにしよう、と。道を歩いているときに実際に会ってブスって言われているわけでもないんだから、気にすることない。しかもブスって書いた人はその後すぐに忘れてしまうのに、私はその後48時間とかずっと考え込んじゃうんですよ。それって、ものすごく不公平ですよね。だからその時々の反応で、揺れるのはやめよう、と決めたんです。
米田:なるほど、そんなこともあっての今なんですね。やっぱりネットで自分をさらすことの経験値が違いますね。自分を守るためにはそういったリテラシーがこれからは絶対に必要になってくると思います。
伊藤:もちろん私だって本音を言えばなるべく好かれたいし、愛されたいですよ。みんなが「はあちゅう、大好き」って言ってくれる世の中が理想ですし(笑)。だからこそ、どんなに100人に好きと言われても、嫌いという人が1人とか2人いると、そっちにばかり気が行ってしまう。実際、その人たちに対して何かアクションを起こして、好きになってもらわなきゃと真剣に思っていた時期もありました。でも、そんなのそもそも無理。今はそういうことに悩まされる心境からは脱せたかなと思います。
米田:100人いたら100人から支持されることはない。その前提がネットとの付き合い方ですね。逆を言えば、いろんな意見の人がいていいんだ、その多様性こそがネットであり、これからの時代のような気がします。
でもね、そういう気構えを10年くらい前の20歳前に身に付けて歩いてきたというのはすごいですね。でも、それって大きな強みですね。ブログやソーシャルメディアで叩かれたり、いろんなことを書かれたりするのは、これからみんなが経験していくことかもしれない。その意味でも、はあちゅうさんは先駆けですね。