聴覚障害者のみならず、健常者も目にすることの多い手話。だが、そもそも手話は世界共通ではないことをご存知だろうか。国や地域でさまざまな種類があり、“共通語”が存在しないのが現状だ。また“方言”などもあるため、日本国内においてさえ、例えば関東と関西とで異なる場合もある。
そうした多様な手話に対して、「動画」と「集合知」とを組み合わせたオンライン手話辞典構想を掲げるサービスがある。それが「SLinto(スリント)」である。開発を手掛けるのは、ビデオチャットを利用した手話通訳「テルテルコンシェルジュ」などの手話事業を展開するシュアールグループ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)から誕生したベンチャー企業だ。
「例えば、“犬”という単語から手話を探すことは、それほど難しくはありません。ですが、はじめに手話の動作があり、その手話の意味が分からなかった場合は調べる方法がありません。そこで手話の手の形と位置から検索する手段をつくれないかと考えたわけです」(株式会社シュアール代表取締役 大木洵人氏)
一般に手話は、手の「形」「位置」「動き」の3つの要素から成る。SLintoでは、手話の「手の形」と「体に対する手の位置」によって、手話の直接入力を可能にする。キーボードには、手指の形状をキートップに割り当てた「手形(しゅけい)」入力領域と、人の形を分割しキートップに割り当てた「位置」入力領域を設置。左右の手の「手形」「位置」のキー入力の組み合わせにより、手話をキーボードで入力できるようにした。検索結果は、手話動作を撮影した動画の一覧として表示され、ユーザーはその中から自分の探している動作を選ぶこととなる。
「まずはオンラインでのリリースとなりますが、ゆくゆくは本物のキーボードをつくることも考えています。Bluetooth接続により、いろいろな端末で使えるようにする予定です」(同氏)
SLintoのもうひとつの特徴は、ユーザーが独自に手話動画を撮影し、アップロードすることで新しい単語を追加していくことのできる点である。つまり、手話版のWikipediaだ。間違った動作や不適切な動画などが投稿された場合は、FIT機能と呼ばれる評価機能によって淘汰されていく。ユーザーによる評価の高い手話表現を上位に表示することで、辞書としての精度を担保する仕組みだ。また、ユーザーに編集を委ねることで、日々、大量に生み出される新語や俗語にも、迅速に対応することができるようになる。
じつは、新語に素早く対応できるという点が、SLintoの大きな強みである。ここで生み出された手話が、世界標準となる可能性があるからだ。
「企業の製品名などに手話が素早く対応していくことは困難です。そこで企業向けにSLinto内でチャンネルを提供して、サービスやプロダクトに対応する手話一覧が出てくるようにする。また、新商品の手話をつくろうといったキャンペーンを打つことも可能です。そうすれば、その商品の世界標準となる手話が、SLinto上で出来あがることになります」(同氏)
現在は6月のローンチに向けて準備中の段階だが、年内には日米のみならず、中国語圏への進出も視野に入れているという。Wikipediaのような世界標準のプラットフォームとなるか注目したいところだ。
(中島駆/5時から作家塾(R))