今年の夏、ある日の終業時間のことだった。ファッション大手シーインの広東省広州のオフィスで従業員がエレベーターにどっと乗り込んだが、スカイ・シュー氏に気付いた人はいなかった。隅にいたこの物静かな男性こそ、中国有数の富豪であり、瞬く間に世界屈指のショッピングの場となったアプリのけん引役であり、エレベーターに乗っていた全員の上司だった。その日、シュー氏はシーインの顧問を務めるフランシス・タウンゼント氏と一緒だった。従業員が最高経営責任者(CEO)を知らない様子であることに驚いた。建物を出たタウンゼント氏がシュー氏にそう言うと、シュー氏は当然のように答えた。「それは自分たちのカルチャーではない」シュー氏が誰かを知らないのはシーインの従業員だけではない。