ある日、「スーパーで豆腐と野菜と卵を買って、薬局でビタミン剤を買う」と決めて家を出たのに、薬局に着いたとたんに「何買うんだったっけ?」と、どうしても思い出せず、ビタミン剤以外の物を買って帰ってきて「あ!ビタミン剤」とガッカリする。あるいは薬局すら忘れて荷物を置いたところで「あ、薬局行くんだった!」なんてことが生活の中で2日も続くと、「もうダメ、わたし物忘れ激しくて」と嘆いていませんか。
ストレスコントロールで一番大事なことは、嘆かないことです。これを専門用語で「嘆きからの脱却」と言います。何かに失敗したときに自分を「ダメ人間!」と、嘆くことが最もいけないとされています。嘆くことそのものがストレスだからです。自分がダメになったと嘆きを繰り返すとストレスが溜っていきます。仕事がさらに捗らなくなったり、物忘れがもっと激しくなったりと、気分もますます悪化してしまいます。
自分を「ダメ!」と叱ることは、たるんでいるときには必要かもしれませんが、物忘れをする自分と上手く付き合いながら生きていくためには、物忘れのストレスに強くなるトレーニングが必要なのです。
このようにストレスに対処していくことを、専門用語で「コーピング」といいますが、物忘れを例にとって、コーピングの説明をしましょう。
コーピングの訓練
まず、嘆かないこと。
次に、少しペースを落として、落ち着いて、やることを整理して1日にやれる量をセーブして行動することから始めます。これは脳を少し休めることにつながります。本当の物忘れと、単なる脳の疲れは、根本的に異なるものだからです。
脳が疲れているのに、あわただしく、しかも大量の仕事をこなそうとしても、脳から指令が出てきません。どんな人でも、個人の状態に合わせて1人前は1人前の容量しかこなせないものなのですが、そこを頑張れば5人前ぐらいできるだろうと思うのは、人の勝手な空想なのです。
物忘れをやたら嘆かない、物忘れというストレスに強くなる。これがコーピングです。やたら忙しい日が続いたら、一度落ち着く、整理する、1日の仕事量を一時セーブする、これらすべてが第4回でお話しした「振り子の紐の調整」です。