「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。

「これはいいな」と思ってもらえる「真実の瞬間」を見極める力Photo: Adobe Stock

「真実の瞬間」を見極める力

 ビジネスの世界でよく使われるのが、「真実の瞬間」という言葉です。英語で言えば、店頭での「First Moment of Truth」。リアルに何が起きているか、です。

 私は「ジョージア」の再生プロジェクトで、コンビニの棚を仮設で作り、ストップウォッチを持って、「Stopping」「Holding」「Closing」を調べました。そこにこそ「真実の瞬間」があるからです。

 そしてこれは、インターネットの世界でも同じです。パソコンあるいはスマートフォンの画面上でストップしてもらえず素通りされてしまうと、販売したい製品にはたどり着かないのです。最終的に買い物カゴに入れてもらうというアクションを、どうネット内に作っていくか。

 リアルであれ、オンラインであれ、お客さまがモノを買うときというのは、同じなのです。「Stopping」「Holding」「Closing」という基本をいかに徹底させるかが問われるのです。

 そして、やらなければいけないのは「First Moment of Truth」の前に「この製品はいいな」と思ってもらえる状況を作ることです。広告を打って、「なんか良さそうだな」という状況を作る。「Zero Moment」にそれがあると、大きな援護射撃になるのです。

 たとえば「太陽のマテ茶」では、日本のマテ茶の認知率が1割程度だったものを、5割にしようとしました。これも「Zero Moment」の取り組みです。テレビで紹介してもらったこともそうです。それが、大ヒットにつながったのです。

 そして「Second Moment of Truth」もあります。「真実の瞬間」の後です。製品を買ってもらった後、ブランドのプロミスに対して満足いくだけの製品力がなければ、「なんだ、これは」ということになってしまう。

 その点では、私はラッキーでした。P&Gジャパンも日本コカ・コーラも、研究開発セクションがしっかりしていて、強い製品力があったからです。だから、リピートを獲得できた。逆に強い製品力がなければ、リピートは得られません。それでは、ブランドは瞬間で終わってしまいます。

「真実の瞬間」を見極める力をつけるには、一つ方法があります。それは自分自身の「真実の瞬間」を冷静に見極めることです。他社の製品やサービスを買うとき、自分はどう感じているのか。もし、自分がこの製品をマーケティングするなら、どうするかを考えてみる。

 あるいはハッとするときはどんなときか。国内でも、海外でも、アンテナを高くして意識しておく。その気づきを、自分の仕事に生かす。実はいろいろなヒントは、自分の身の回りにたくさんあるのです。

「これはいいな」と思ってもらえる「真実の瞬間」を見極める力

和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。