創業9年目で売上300億円と、急成長を遂げている家電メーカー、アンカー・ジャパン。そのトップに立つのは、27歳入社→33歳アンカーグループ最年少役員→34歳でアンカー・ジャパンCEOに就任と、自身も猛スピードで変化し続けてきた、猿渡歩(えんど・あゆむ)氏だ。「大企業に入れば一生安泰」という常識が崩れた現代、個人の市場価値を高めるためには「1位にチャレンジする思考法」が必要だと猿渡氏は語る。そんな彼が牽引してきたアンカー・ジャパンの急成長の秘密が詰まった白熱の処女作『1位思考──後発でも圧倒的速さで成長できるシンプルな習慣』が発売たちまち話題となっている。
そこで本書の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みを猿渡氏にぶつける特別企画がスタートした。第10回目は、「売上100億円達成まで意識したこと」について聞いた。(構成・川代紗生)
売上100億円達成まで
大型プロモーションより重視したこと
──『1位思考』に「アンカー・ジャパンは売上100億円を達成するまで、実は大型プロモーションはほとんど行っていない」という箇所があって驚きました。
猿渡さんが、マーケティングで特に意識されていることを教えてください。
猿渡歩(以下、猿渡):私たちが心がけてきたのは、「魅力的な製品を愚直につくり、それを販売する」という、至ってシンプルな戦略です。
アマゾンをはじめとしたECプラットフォームや口コミサイト、SNSの発展によって、顧客のレビューが製品の売上に大きな影響をもたらすようになりました。本当によい製品なのか購入前に確認し、納得したうえで購入する人が増えてきています。アマゾンの売れ筋ランキングでも、高レビューの商品が売れていきます。
逆にいえば、レビューでよい評価を獲得できなければ、ランキング上位をキープするのは難しい。そう考えると、結局は、魅力的な製品をつくるしかない。
一時的な広告効果で商品が売れることはありますが、広告をやめた途端、まったく売れなくなる製品をつくる意義は少ないのではないか、と考えています。
プロダクトが提供する3つの価値
──逆にいえば、よいものをきちんとつくれば、顧客が正当に評価してくれるようになってきたということでしょうか。
猿渡:もちろん、コミュニケーションも大事にすべきだと思います。
顧客に製品の魅力を届ける努力を怠っていいということではありません。
ただし、ブランドイメージを上げることや、顧客に「情緒的価値」を提供することにばかり力点を置き、「機能的価値」をないがしろにしてはいけません。プロダクトの機能的価値が満たされてないと、「また買おう!」とは中々ならないからです。
「マーケティング理論」4つのフェーズとは
──顧客の求める高品質の製品をつくり続けるということでしょうか。
猿渡:そうですね、20世紀初頭から現在までのマーケティングの流れを振り返ってみると、イメージしやすいかもしれません。
「近代マーケティングの父」といわれるフィリップ・コトラーの提唱したマーケティング理論によれば、時代の変遷によって、「マーケティング1.0」から「マーケティング4.0」まで、4つのフェーズに分類できるといいます。
ここでは簡単に、私個人の解釈を踏まえた概略のみ説明します。
まず、「マーケティング1.0」は、1900年代~1960年代頃に育まれた「製品主義」の考え方です。
産業革命で大量生産が可能になり、「3種の神器」と呼ばれるテレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電が爆発的に売れました。需要に対して、供給が追いついていない時代です。
次に「マーケティング2.0」は、1970年代~1980年代頃の「消費者志向」の考え方です。
価格競争も進み、「大量につくれば売れる」時代に変化が訪れ、今度は「消費者のニーズにいかに応えられるか」が鍵になってきました。
そして、「マーケティング3.0」は、1990年代~2000年代頃の「価値主導」の考え方です。
高品質・低価格の製品が増え、プロダクトの差別化がより難しくなりました。
この頃、インターネットも普及しはじめ、消費者の得られる情報も一気に増加。「企業が売り、消費者が買う」というシンプルな関係性から、「企業と消費者が、社会的価値をどう共創していくか」という点も重視されるようになりました。
最後に、2010年代から現代。「マーケティング4.0」は、「自己実現」の時代といわれています。
モノや情報があふれたこの時代、消費者が「なりたい自分」を叶えられるかどうか、という「精神的価値」も求められるようになってきていると思います。
──先ほどの図でいうと、一番上の「自己表現価値」というところですね。
たしかに、「あなたの『なりたい姿』を叶えます!」という広告をいろいろなところで見かけます。
猿渡:「マーケティング3.0」から「マーケティング4.0」の流れを見ればわかるように、ブランドを丁寧に育てること、多くのファンを獲得することは、企業にとっての大きな課題だと思います。
しかし、それは、よい製品を提供してこそ。
製品そのものが優れているか?
顧客目線で事業をしているか?
この2つをないがしろにしたまま、ブランドを構築しようとするのは、悪い地盤に家を建てているのと同じで、短期ではなんとかなっても、サステナブルな事業運営は困難です。
プロモーションやブランディングを工夫するにしても、「機能的価値」は大前提の必須条件であることを忘れてはいけないと、私は常に意識しています。
(本稿は『1位思考』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)