「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。

「おいしいのはどれ?」と聞かないからこそ爆受けしたテレビCMPhoto: Adobe Stock

「急須でいれた緑茶にもっとも近いのはどれ?」

 私は「綾鷹」の本質を伝えられるコミュニケーションを考えました。これが、大きな効果を生みました。

 このときに使ったのが、「急須」「濁り」という「綾鷹」のエッジです。新しいテレビCMで「綾鷹チャレンジ(日本全国綾鷹試験)」シリーズを展開したのです。

 製品名を隠し、競合を含んだ4つのお茶のうち、「急須でいれた緑茶にもっとも近いのはどれ?」という味覚調査を行い、消費者編、舞妓編などをテレビCMにしました。「おいしいのはどれ?」ではないところがポイントです。問うたのは、急須でいれた緑茶にもっとも近いもの、なのです。

「綾鷹」は濁っている唯一のお茶。なぜ濁っているのかというと、本来、お茶は濁っているものだからです。実は工場でお茶を作るときにも、濁りは生まれます。ところが、それをすべて取り除いていたのです。どうして取り除いてしまうのか。残しておいたほうが、おいしいのではないか。それが「綾鷹」の誕生のベースにありますが、もちろん残しておくと手間もかかります。フィルターが目詰まりを起こしたりする。したがって、生産上も取っておいたほうが効率が良かったのです。

 しかし、急須でいれたお茶がおいしいように、濁りのあるお茶はおいしい。それをきちんとセールスポイントにしようと考えたのでした。

 そもそもお茶は急須でいれるのが、本物です。濁っているほうが、本物に近い。急須に入った本物に一番近いおいしさが、ペットボトルに入っていて、実際に他のお茶よりもおいしい。だとすれば、そのまま消費者に伝えたら、必ず買ってもらえると思ったのです。それをうまく言えていないだけで、言い方の方法論を考えれば間違いなく売れる。しかし、当初は社内で誰も信じてくれませんでした。

 テレビCMでは、「消費者編」でも「舞妓編」でも多くの人たちが、「綾鷹」のおいしさを実感してくれました。濁っていることの差別化にも気づいてもらえた。こうしてようやく社内でも、「そういうことか」と理解してもらえました。

「3A」の「Availability(配荷)」もどんどん上げていきました。店頭にどんどん置かれるようになっていったのです。テレビCMがどんどん流れていきますから、店頭で「『綾鷹』はないの?」と聞かれるようになります。スーパーマーケットでもコンビニでも、配荷率は約2倍に向上したのです。

「Affordability(価格)」も、プレミアム市場からシフトして大きく下げ、競合と近い価格へ変えていきました。「3A」を一つひとつ確実に高めていくという戦略は、「綾鷹」の成長を一気に牽引していくことになりました。ブランド認知率、購入意向も順調に伸び、「綾鷹」の売り上げは、飛ぶ鳥を落とす勢いになりました。リポジショニングは大成功したのです。

「おいしいのはどれ?」と聞かないからこそ爆受けしたテレビCM

和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。