このケースもそうだったのですが、清掃の依頼は夏に増える傾向があります。やはり、匂いがきつくなり、虫の数も増えるので、居住者や近隣住民が耐えられなくなって依頼が集中するからです。防護服の中は汗でびしょ濡れになるので、作業どころではありません。30分ごとに休憩しなければ命の危険があるような現場でした。そうした状況で5日間もかかってしまいました。

 ちなみに、その部屋で遭遇したゴキブリも過去最多でした。感覚値では数千ではなく、数万匹。部屋の天井に固まっていて、僕らの動きに合わせて部屋中を移動していました。ここまでの大群だと、最初見たときにゴキブリだと気づけないんです。脳の処理が追いつかないんでしょうね。黒い大きなシミのように見えました。個体が落下してくるのを見て初めてそれがゴキブリの大群なのだと認識しました。全てにおいて桁違いのゴミ屋敷でしたね。

想像を絶する臭い
冷蔵庫に上限はない

ーーありがとうございます。ちなみに皆さんは匂いと汚れのどちらが苦手ですか?

有山達也(以下、有山) あるいは僕は匂いはもう入室してから30分で慣れてくるので平気なんですけど、汚れによってはやっぱりスタッフもなかなかやっぱスピード落ちてしまうことがあります。

ーースピードが落ちてしまう、身構えてしまう汚れとは具体的にどんな汚れですか?

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有山 排泄物と冷蔵庫は得意・不得意がわかれますね。3〜4年くらいならまだ大丈夫なんですけど、5年を超えてくると、開けた瞬間に吹っ飛ぶスタッフも出てきます。冷蔵庫は上限がない。時間の経過と中身の組み合わせ次第では、想像を絶する領域までいってしまいます。

 内容物で言えば、発酵食品はストレートにキツい。元々臭いや菌があるので、冷蔵庫での腐敗の仕方も相当にひどいです。臭いは鼻を突き抜けて目まで痛いくらいです。

石田 冷蔵庫の臭いが、僕もすごい苦手です。それ以外の処分については基本的に何でも大丈夫です。昔もよくやってたのですが、孤独死の現場とかも先頭切って作業したりできましたし、お客様が袋の中に排泄物を詰めてるものとかも平気で撤去できます。ただ、冷蔵庫の中の臭いだけはキツいんです。

 私の中で究極の冷蔵庫は、海鮮が常温で数年放置されたものが一番キツかった。カニでした。30代女性で、ブラックで大嫌いな会社からもらったものらしく、「絶対に食べない」と心に決めてそのまま放置してしまったそうです。

ーー冷蔵庫の中ってどんな状態になってますか?

石田 うまく言えないのですが……原形はとどめていなくて、「影だけ残っている」といった感じでしょうか。ある、だけど、ない。缶とかも腐敗して溶けています。アルミ缶も触ったら、ポロポロと崩れていく感じです。

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