直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】<br />歴史教科書と歴史小説の決定的違いPhoto: Adobe Stock

何を学びとるかを
導いてくれる歴史小説

歴史小説は、解説書として非常に読みやすくできています。

「1560年に桶狭間の戦いがありました。この戦いで織田信長軍が勝利しました」

このように、事実だけが書いてある本の場合は、自分自身で「そこから何を学びとるか」を考えなければなりません。

歴史学者ではない一般人にとって、このゼロからイチを生み出す作業は、けっこう大変です。

歴史小説の書き手が
サポートしてくれる

一方、歴史小説には書き手の解釈や解説が加えられています。

「この出来事はこういうことだったと思うんだけど、君はどう思う?」のように、さりげなく補助線を引いてくれるイメージです。

その補助線をとっかかりにして、私たちは「たしかに、そう思うな」「いや、それは違うんじゃないの」などと議論を発展させていけます。

書き手がゼロからイチを生み出すサポートをしてくれるおかげで、より歴史から知恵を学びとりやすくなっているのです。

書き手によっての
さまざまな解釈を読み比べる

さらに、事実の解釈は書き手によって千差万別です。

織田信長という武将についてのように捉えるケースもあれば、人情家の側面にスポットライトを当てるケースもあります。

さまざまな解釈を見比べながら、「こっちの信長が自分の理解に合っているな」などと選んでいくのもいいですし、独自の解釈を打ち立てるのも悪くありません。

“人生のカンニングペーパー”で
あらゆる問題に対応

いずれにせよ、読書体験を積み重ねていくにつれ、“人生のカンニングペーパー”は厚みを増していきます。

最終的には、自分の頭の中に、ありとあらゆる問題に対応できる『家庭の医学』のような情報ができあがるのです。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。