直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
日本のお笑いの世代分け
お笑いの歴史は、しばしば世代別に語られます。
第2世代=ビートたけし、明石家さんま、タモリ
第3世代=とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン
――といった具合です。これにならい、歴史・時代作家をデビュー期間順に世代分けしてみましょう。
歴史小説家を世代別に分けると
『大菩薩峠』の中里介山や、直木賞の名前にもなっている直木三十五が第1世代。
彼らと吉川英治、海音寺潮五郎などの第2世代の書き手たちがブームを起こしながら歴史・時代小説というジャンルを確立しました。
そして、先行世代が耕した土壌から、流行作家が続々と生まれます。それが「一平二太郎(藤沢周平・司馬遼太郎・池波正太郎)」に代表される第3世代です。
最強の第3世代
この時代の作家たちこそが最強世代であり、今でも書店の棚で大きな存在感を保っています。
お笑いの第3世代であるダウンタウンが、いまだにトップランナーである様子と重なるものがあります。
のちの作家たちは何を書いても彼らの作品と比較され、同じ題材を扱おうものなら真似をしたといわれるリスクを背負うこととなりました。
つまり、最強世代は私たち現役作家を苦しめ、壁になっている世代でもあるのです。
早世の第5世代
山田風太郎が『甲賀忍法帖』や『魔界転生』など奇想天外な作品を残したのに対して、司馬遼太郎は王道をひた走り、池波正太郎は人情味にあふれる時代物も手がけ、藤沢周平は滋味のある作品で才を発揮するなど、不思議と作風がばらけているのも面白いところです。
第4世代は、今も現役バリバリの書き手がひしめいています。宮城谷昌光先生、浅田次郎先生、北方謙三先生など、70代になっても衰え知らずの作家たちです。
その後に続いた第5世代は、一転して早世の作家が目立ちます。『利休にたずねよ』の山本兼一先生は57歳、『蜩ノ記』の葉室麟先生は66歳、『天地人』の火坂雅志先生は58歳でお亡くなりになっています。
第6世代と第7世代
そして、現在40代~50代の作家群が第6世代に相当します。私自身もこの世代の先輩たちと対談する機会が多く、同世代に括られがちです。
ただ、デビュー後の年数でいえば、まだ6年目の私は第7世代に相当するのかもしれません。実際、自分ではひと言も言っていないのに、ある作品の帯で「第7世代」と書かれたことがあります。
というわけで、本書でも今村翔吾は第7世代ということにしておきましょう。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。