ベトナム経済は2022年に15年ぶりの高成長を記録したが、23年は5.05%と減速し政府目標である6.5%を下回った。24年は下回る見通しだが、過度に悲観するほど状況は悪くない。経済状況を詳細に検証する。(第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト 西濵 徹)
22年は商品高とドル高でインフレ上振れ
中央銀行は利上げに追い込まれる
ここ数年の米中摩擦の激化の動きに加え、コロナ禍や2022年のウクライナ戦争をきっかけに、世界的に分断の動きやデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーンの見直しの動きが広がるなか、ベトナム経済はこうした動きによる『漁夫の利』を最も得ることができると期待されている。
ベトナムは地理的に中国と隣接していることに加え、世界経済の成長センターと目されるASEAN(東南アジア諸国連合)の中心に位置している。
加えて、アジア太平洋地域における経済連携協定(CPTPP〈環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定〉およびRCEP〈地域的な包括的経済連携協定〉)に加盟するなど投資環境の整備を進めてきたこともあり、対内直接投資の流入の動きが活発になっている。
他方、2022年はウクライナ戦争を受けた商品高に加え、国際金融市場における米ドル高の動きも重なりインフレが上振れした。そのため、ベトナムの中央銀行は物価と為替の安定を目的とする継続的な利上げに追い込まれ、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まった。
次ページ以降、23年以降のベトナム経済の変動について分析していく。