政策は支持されず「増税メガネ」と揶揄され、支持率が低迷する岸田政権。自民党・派閥パーティー券問題が直撃するなど内政は厳しい局面に立たされているが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は「外交は実に狡猾で巧み」だという。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
岸田首相は中国におもねらず
きちんと主張している
“深海魚政権”――私は岸田政権のことを、ひそかにそう呼んでいます。政務三役の辞任が相次いで任命責任を問われたり、政策が支持されずに「増税メガネ」とやゆされたり、どれほど強い圧力がかかろうとも、受け止める強靭さを持っているからです。内閣支持率は、どの世論調査を見ても低迷しています。
マスメディアは、支持率が20%台に低下した内閣はどうたたいても構わない、という風潮になっているようです。例えば、米サンフランシスコで11月16日(日本時間17日)に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で、岸田首相は中国の習近平国家主席と首脳会談を行いました。日本の新聞は、ほとんど成果がなかったように報じています。11月18日の「朝日新聞」朝刊は、こんなあんばいです。
その空気感は、今の険悪化した日中関係を反映したものだ。日本側から見れば、中国は水産物の禁輸措置や日本周辺での軍事活動の活発化で威圧的行動を強めている一方、中国側から見れば、日本は中国を「戦略的挑戦」と位置づけ、米国主導の「中国包囲網」に喜んで加わっている。日中双方の相手国に対する不信感は強まる一方だ。
そんな中、両首脳が日中関係を前向きに転換させるために再確認したキーワードが「戦略的互恵関係」だ。2006年10月、安倍晋三首相(当時)と胡錦濤国家主席(同)との間で打ち出された概念で、政治体制が異なっても両国間の共通利益を見いだすために協力することを指す。
外交の専門家である筆者の評価は、これと異なります。現在の日中関係において、両首脳が「戦略的互恵関係」について確認したことは、大きな意味を持つからです。さらに重要なのは、岸田首相は中国におもねらず日本が主張すべきことをきちんと主張した事実です。
台湾海峡を巡る情勢、東京電力福島第一原子力発電所の処理水問題に関わる日本産食品の輸入規制、中国における邦人拘束事案など、中国側が嫌がる問題についても日本側の認識を示し、必要な要求を行っているのです。外務省のホームページには次のようにあります。
(11月16日)
双方の利害の対立を明確にしつつ、相互に利益になる事項については協力していくというプラグマティックな外交を、岸田首相は展開したといえます。