12月14日、認証式を終え、記念撮影する(左から)斎藤健経済産業相、松本剛明総務相、岸田文雄首相、林芳正官房長官、坂本哲志農林水産相12月14日、認証式を終え、記念撮影する(左から)斎藤健経済産業相、松本剛明総務相、岸田文雄首相、林芳正官房長官、坂本哲志農林水産相 Photo:JIJI

自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑を巡り、岸田首相は「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んでいく」と述べたが、元外交官で作家の佐藤優氏は「特捜部は、岸田政権が国会で火だるまになる事態をわざわざ狙った」と言う。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

国会で火だるまになる事態を
わざと狙ったタイミング

 自民党の派閥パーティー券を巡る裏金疑惑が、大きく広がっています。発端は、12月1日の朝日新聞の報道でした。明らかに東京地検特捜部によるリークですが、なぜあのタイミングだったのか。その理由を考えると、事件の裏の意味が見えてきます。

 ちょうど岸田文雄首相は中東に外遊中で、アラブ首長国連邦(UAE)に滞在していました。報道に迅速に対応できないタイミングを、あえて狙った記事でした。しかも、臨時国会の会期末は12月13日でした。記事があと2週間ほど先だったら、岸田首相や閣僚は国会であれほど追及されずに済んだわけです。

 岸田政権の対応が後手に回り、国会で火だるまになる事態を、わざわざ狙ったと考えるのが自然です。すなわち、特捜部とその動きを認めている最高検察庁が、岸田政権と全面対決しても構わない。むしろ徹底して戦うんだ、と腹をくくったことを意味します。

特捜部が「今」着手したのは
政権が弱っているから

 派閥を巡る裏金とキックバックの問題は、かねてウワサされてきました。長く続いてきた慣習なのに特捜部が手を付けられずにきたのは、政治の力が強かったからです。ここで着手したのは、政権が弱くなったと検察が認識しているからです。

 検察が捜査情報を漏洩(ろうえい)することは、国家公務員の守秘義務違反です。そうした違法行為でマスメディアを利用し、まず世論を動かし、自ら起こした風に乗って事件化するという手法が、果たして民主主義になじむのか。この事件の本質とは別に、改めて議論する必要があるでしょう。

 岸田内閣の支持率低迷は、景気の低迷に大きな原因があります。よりによって、インボイス制度の導入で実質的な増税になり、物価高が家計を直撃して国民が苦しんでいるときに、政治家たちが豪華ホテルのパーティーであぶく銭を得てきた事実が発覚すれば、メディアからも国民からも厳しい目が注がれるのは当然です。

 資金集めパーティーは、野党にとっても重要な収入源です。しかしなぜ自民党に限って、派閥という無責任な主体が行う必要があるのか。この際、政治資金規正法を改正して、パーティーができる主体を明確化すべきです。派閥のパーティーが禁止されれば、大半の永田町の秘書たちや、各企業の総務担当者はほっとするでしょう。売りつける側も買わされる側も、大変な負担になっているからです。

 政党助成金のほかに政治資金が必要なら、個々の政治家が自分で集めればいいのです。派閥から配られる必要はありません。