尹氏と韓氏はもともと検事時代の先輩と後輩という間柄で、李在明氏の疑惑追及で世論を味方につけるなど、今後が期待されていた。総選挙に向けた非常対策委員長に韓氏が任命されて間もなく、尹氏の夫人である金建希(キム・ゴンヒ)氏が、在米韓国人の牧師から高級ブランド品を贈られ、受け取ったという疑惑が浮上したのだ。韓氏がこれについて「国民が納得する対応をする」と答えたことに尹氏側が強く反発。対立姿勢が鮮明になり、与党内に不穏な空気が流れた。

 韓氏と尹氏は袂を分かつのではないかという見方が広がったものの、その後、尹氏と韓氏は揃って地方の火災現場の視察に訪れるなど、対立が収束したことをアピールしているという見方も出ている。野党や左派政党が尹氏の夫人を巡る問題で常に与党を口撃するのを見れば、与党の足並みが乱れることで世論の同調を得たい思惑も見え隠れする。

 疑惑の真相がどうなのかという以上に今回の件は尹政権にとって大きなマイナスであり、「尹氏は気に入らない側近を感情的に切り捨てる」という印象を持たれかねない。

政治ショーの茶番に振り回され、国民はうんざり

 与野党共に事件やトラブル続きで安定感がないことに、誰よりもうんざりしているのは韓国国民である。

 政治家の襲撃事件が相次いでいるのは「自分が支持しない政党は気に入らない」「社会に対する不満」など、国民の憎悪の感情が高まっていることが背景にあるのではないだろうか。

 韓国では政治思想が異なる相手を徹底的に否定、言葉で攻撃する傾向があり、特にそれは左派に多く、一部の支持者が過激な行為に走ることがある。しかし今や、左派も右派もともに、政治が感情的に国民をあおり、社会の分断を促進しているように見える。また、党内の不和や内紛が起こるたびに分裂や新党結成が繰り返されるが、ほとぼりが冷めれば元の政党に吸収され、いつの間にか出戻っていることも多い。

 結局のところ、韓国国民はいつも政治の茶番に巻き込まれ、感情的に振り回されているということだ。傍観している分には話題に事欠かないが、国民感情としてはたまったものではない。4月の総選挙に向け、韓国では当分の間、 “安定”とは正反対の政治ショーが続きそうだ。