みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜ駅前のビジネスホテルは温泉旅館より安いのか?Photo: Adobe Stock

温泉旅館はビジネスホテルより割高

 私は仕事柄出張が多く、年間100泊ほど外泊をしています。北海道から鹿児島まで津々浦々のビジネスホテルに宿泊しているので、ホテルの相場感やコスパといった感覚に自信があります。

 そんな私が宿泊施設のことでよく感じることがあります。それは何かというと旅館の割高感です。

 ビジネスホテルであれば、1万円も出せば駅前にあるそれなりのホテルに朝食付きで泊まることができます。しかし温泉旅館はどうでしょうか? もちろん旅館にもよりますが、夕飯をつけなかったとしても(朝食付き)、1万円ではそんなに良い旅館には泊まれないのではないでしょうか? 私の場合、温泉旅館に泊まる際には家族5人で一部屋しか使わないにもかかわらず、結構割高な印象を受けます。

コスパの差は平日の稼働状況

 このコストパフォーマンスの差が起きる理由は一体なんなのでしょうか?

 考えられることはいくつかあります。

 例えば、
①旅館がボッていて儲かっている?→倒産する旅館も多く、必ずしも儲かっているようには思えません。
②建物の建設コストが高い?→確かに建物は凝っているかもしれませんが、駅前のビジネスホテルは土地が高いので、旅館だけがコスト高とも思えません。
③運営人員が多く人件費が高い?→旅館は布団の用意をしたり、お茶を用意してくれる仲居さんがいますが、ホテルと比べると相部屋が多いため運営人数当たりの部屋数も少なく特別高い気もしません。

 などなどいろんな要因は思い浮かびますが、必ずしも決定打とはなりません。

 しかし、ビジネスホテルと旅館で決定的に差があるものがあります。それは何かというと稼働率です。

なぜ駅前のビジネスホテルは温泉旅館より安いのか?

 観光庁の出している全国の宿泊施設の稼働率のデータを見ると、ビジネスホテルと旅館の稼働率は約2倍の差があります。これを見ると、「いやいや、旅館に泊まる際に予約が一杯で泊まれなかった経験があるし、こんなに稼働率が低いわけがない!」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 確かに旅館に泊まろうとしたけど予約が一杯で宿泊できないということはあります。しかし、それは多くの場合週末です。何を言いたいのかというと、旅館は週末は稼働率が高いものの平日の稼働率はかなり低いということです。

 一方で駅前のビジネスホテルはどうかというと、旅館同様、週末は観光客の需要で混みあいますが、平日も私のようなビジネスユースが多いため旅館と違って稼働はあまり落ちません。週末の稼働の差は少ないものの、平日の差が大きいことが通年の稼働率の差に繋がっています。

 このような稼働率が低い旅館は、固定費をペイするために割高の価格設定を余儀なくされます。特に最近の宿泊施設は需要と供給の状況に合わせて価格を変更するダイナミックプライシングを採用しているケースが多いため、主に週末に宿泊する機会が多い旅館は更に割高な印象になります。

旅館は高齢者とインバウンドを取り込み稼働率を上げるべき

 このような旅館は稼働率の状況を今後どのように打破していくべきか。そのカギを握るのはリタイアした高齢世代と外国人観光客です。

 コロナの影響も落ち着き旅行需要はだいぶ戻ってきました。インバウンドの人数もコロナ前の水準に戻るのは時間の問題でしょう。そのように観光客数が増加している中で、平日でも自由に動ける高齢世代と外国人観光客の利用を増やし、全体の稼働率を上げていくべきです。

 稼働率を上げれば、社員の給与を上げることもできますし、ビジネスホテルと同じようなリーズナブルな価格でサービスを提供できるようになるのではないでしょうか。

なぜ駅前のビジネスホテルは温泉旅館より安いのか?

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)