道後温泉が入浴料「460円→700円」に1.5倍値上げ、それでも観光客が納得した意外なワケPhoto:PIXTA

国の重要文化財に指定されている愛媛県松山市の観光名所「道後温泉本館」が、入浴料金の値上げ案を発表した。同施設は現在工事中のため、一部施設は利用できない。今年7月から全館で営業を再開するに当たり、「神の湯」の入浴料金が「460円→700円」と約1.5倍に引き上げられる予定だ。数値的なインパクトは大きいものの、顧客の反応は意外にも寛容である。果たして顧客の心理はどう動いていたのか。その支払い意欲を独自調査で導き出したところ、納得の理由が明らかになった。(プライシングスタジオ代表取締役 高橋嘉尋)

人気の観光地、道後温泉
改修工事とコロナ禍で赤字に転落

 道後温泉は四国の愛媛県松山市にある、日本でも有数の温泉地だ。その中心を成すのが、国の重要文化財に指定されながら、現役で営業を続けている「道後温泉本館」である。経営権は松山市が有しており、年末の大掃除の日を除いてほぼ年中無休で営業している。営業時間は午前6時から午後11時まで。まさに今に伝わる公衆浴場として、歴史をつないでいる。

 客層については、観光客はもちろん、足しげく通う地元の常連客も少なくない。それだけに価格もリーズナブルだ。

 あまり知らないという方に向けて補足すると、道後温泉本館には「神の湯」と「霊(たま)の湯」の2種類の浴室があり、加えて2階と3階には大広間や個室など3カ所の休憩室がある。それらを組み合わせた4つの入浴コースが設定されており、それぞれで価格が異なる格好だ。

「神の湯」の入浴のみという最もシンプルなコースだと460円。最も高いコースでは個室での休憩とタオル、浴衣がセットで1580円という設定だ。

 そんな道後温泉だが、現在は本館の保存修理のため工事中となっている。工事の期間は2019年から24年7月までで、それに伴い一部の浴室や休憩室は利用できない状態だ。工事期間中にある程度客足が遠のくことは松山市も見込んでいたと予想されるが、それに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルス禍だった。

道後温泉が入浴料「460円→700円」に1.5倍値上げ、それでも観光客が納得した意外なワケ日本有数の観光名所といえる道後温泉本館だが、現在は工事中だ Photo:PIXTA

 松山市の統計によると、工事前に当たる19年以前では、道後温泉本館の年間入浴客数はおおむね80万人程度。工事を開始すると6割程度に減少し、さらに翌年からコロナの感染が本格的に拡大。20年からの3年間は年間20万人前後と、以前の4分の1程度にまで客数が落ち込んでいる。このような状況から、収入が大幅に減少していることは容易に想像がつく。

 収入の減少だけではない。物価の高騰や人件費の上昇で支出がかさみ、20年から道後温泉本館は赤字を計上しているという。値上げはこうした背景を受けてのものだ。

 道後温泉本館を運営する松山市は、工事が終了し営業を再開する24年7月以降の入浴料金を改定する案を議会に提出した。議会で可決され、成立すれば正式に値上げが決定する。

 示された値上げ案は以下の通りだ。「神の湯」の入浴料金が460円から700円に改定されるなど、全てのコースで1.5倍以上の値上げが予定されている。

道後温泉が入浴料「460円→700円」に1.5倍値上げ、それでも観光客が納得した意外なワケ道後温泉本館の値上げ予定額(開示資料をもとにプライシングスタジオ作成)
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