たとえば、商人が商売上のいつもの取引の相手方から契約の申込みがあったのに、忘れるなどして、そのまま返答(承諾)しないでいたとします。民法ではこうしたとき契約は成立しませんが、商法では申込みを承諾したもの(契約が成立したもの)とみなされるのです(商法509条2項)。これは商売をスムーズにする知恵であり、民法の規定からすれば特別法といえるルールなのです。
もっと大きな目で見てみると、民法は「一般人の間のルールを定めたもの」、そして商法では、とりわけ「商売のプロや、プロがやるような行為に関するルールを定めたもの」ということができます。その意味で商法自体が民法の特別法であるといえます。
特別法は、ひとつの法律がまるごと特別法である場合ばかりではありません。ある法律の一部分だけに別な法律の特例が規定されているものもあります。この特例規定自体もやはり特別法ということができます。これを「見抜いて」、理解するのが大切になります。そうはいっても、どの法律やどの規定が特別法に当たるかはわかりにくい場合も多いものです。
法律を読み解くための「神スキル」(2)
一般法、特別法を示すシグナル
「私が一般法よ」「この法律こそ特別法です」。せめて、法律にそんな「目印」でもついていたらいいと思いませんか? 実は、ついているものもあるのです。例えば次の行政事件訴訟法1条の規定です。
●行政事件訴訟法
(この法律の趣旨)
第1条 行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
「他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、」に注目してください。ほかに、特別法があることを前提にしていますよね。ということは、この法律が一般法ということです。そうです、このような規定があれば、その法律は一般法なのです。
次に、ある法律について、特別法があるとすれば、その法律の名前が知りたいものです。しかし、それは多く法律に接してきた者でさえ難しいものです。この難しい答えを教えてくれるのが六法なのです。ちょっと親切な六法だと、その規定のあとに、注釈をつけて、特別法の名前や条文を書き出してくれています。六法は、特別法の名を見つけるという便利な使い方もできます。
実は、特別法の方にも「目印」があり場合があります。「○○法第×条の規定にかかわらず、~とする」などの規定があれば、その規定が特別法ではないかと疑ってみてください。○○法第×条が一般法で、その一般法の一部について例外規定を定めていることが推測されるのです。
残念ながら、「目印」のない一般法や特別法もありますが、それは経験のかなかでカバーできるものも多いものです。まずは、一般法と特別法との関係、そして、そうした関係を表すシグナルに敏感になることからスタートしてみてください。
それが新しい「法律を読む技術・学ぶ技術」への扉となるのです。