最近の労働環境は「ハラスメントブーム」状態。課長にとって、おそらく過去最大レベルに労働法の知識が求められる時代が訪れています。新刊『課長は労働法をこう使え!』の中から、事例とともに実践的な「法律の使い方」をお伝えする連載第7弾。
「ブラック企業」が注目されると
課長が困り果てる理由
最近、大学のキャリアセンターやキャリアサポート室には、労働法関連のリーフレットや資料がたくさん置いてあります。いわゆるブラック企業やブラックバイトのニュースがメディアで頻繁に報じられ、実際に被害に遭う学生もいる中で、自分の身を守ろうと労働法を勉強する学生が急増しています。
結果として、新入社員は労働法を知っているのに、課長は知らないというケースが起こり得ます。
私は、さまざまな会社から労働問題について法律相談を受ける機会があります。すると実際に、社長や幹部よりも、従業員、それもいわゆる「不良従業員」と言われる人のほうが法律に詳しいというケースも少なくないのです。
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とある運送業を営む会社での出来事です。
この会社には、日頃から勤務態度や素行が悪い社員がいました。
遅刻や無断欠勤を繰り返す。
動画投稿サイトに会社を批判する動画を配信する。
社有車を休日に無断使用して遠出し、ガソリンを使い果たして補充もしない。
直属の上司の課長が退職勧奨と説得を根気よく続けて、
円満退社が決まりました。
元社員は社宅に入っていたため、
課長は「荷物をまとめる2週間は待とう」と告げます。
半分情けをかけたつもりで言ったのです。
すると、元社員は不敵に笑ってこう言いました。
「課長、何言ってるんですか。私は会社を辞めても社宅は出ていきませんよ」
「6ヵ月間は社宅に住む権利がありますからね」
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社宅は会社を退職し、従業員身分を失っても、すぐ出ていかなくてはならないわけではありません。社宅使用料が近隣の家賃相場とあまり変わらないなど一定の場合には、借地借家法という法律が適用される可能性があり、正当事由と6ヵ月前の解約告知が必要になるからです。要するに、6ヵ月間は住み続ける権利があると言うわけです。
別の案件では、大学院卒の若手社員が、会社の研修施設の管理人を住み込みで1人で担当していたという事案がありました。
朝一番に施設のエントランスを掃除し、ゴミの分別をしたのちは、防犯カメラの監視モニターを見ているだけの仕事でした。「自分の能力がまったく発揮できない」と仕事に不満をもち、「自分は会社に飼い殺しにされた」「自分の才能をつぶされた」と会社を恨むようになりました。
この社員はたっぷりある時間をつかって労働法の勉強をし、ユニオンに入って、会社に団体交渉を申し入れるとともに残業代の支払いを請求しました。
結局、一定の残業代相当額と解決金を支払って解決しましたが、この若手社員の上司である課長も、団体交渉へ同席することとなり、膨大な時間をこの案件に費やすこととなってしまいました。
課長は、これまでの長い現場経験を会社に買われてその職に就いたわけですから、実務能力は高い人がほとんどです。しかし法律を知っているかどうかに関して、現場の実務能力は関係ありません。いざというときに不利になるのは、当然ながら「法律を知らない人」です。