「社会保険料ってなんでこんなに高いの?」
「安くできる方法ってないの?」
「どんな時に、どんな給付がもらえるの?」
「細かい話はいいから、重要なことだけ知りたい!」


そんな社会保険にまつわる素朴な疑問や不満を、ストーリー形式で解決していく本連載。
今回は、誰も教えてくれない社会保険の全体像を、サラッと理解する方法をお伝えします。

「社会保険料のせいで手取りが激減している!」
と感じるすべての人へ

松島先生:佐藤さん、こんにちは。社会保険労務士の松島です。社会保険の担当とは、これはめんどうな仕事を引き受けましたね……と私が言っちゃいけないけど。

佐藤さん:社長に押しつけられたんですよ!仕方なく勉強を始めたんですけど、めちゃくちゃむずかしそうで、もう投げ出しちゃおうかな……。

田中社長:おいおい佐藤くん!

松島先生:まぁまぁ。基本的なしくみは意外と簡単ですから。きちんとお教えしますので安心してください。……ところで、さっきから大事そうにしているその資料は何?

佐藤さん:僕の給与明細です。

松島先生:あら。それで?給料が上がったのかな?

佐藤さん:だったらいいんですけど、違います。前から思ってたんですが、税金とか社会保険料って何でこんなに天引きされるんですか?人の天引きを計算するのも気持ちのいいものじゃないけど、自分の天引きを計算するようになって、もう不愉快でしょうがなくて。

松島先生:あはは。まぁ、気持ちはわかります。

佐藤さん:で、何でこんなに高いんですか?

松島先生:何でって……。じゃ聞くけど、何が天引きされてるか知ってる?と言うか、社会保険って何種類あると思ってますか?

佐藤さん:えっ、何種類って……3種類ですよね?給与明細に「健康保険・厚生年金・雇用保険」って書いてあるじゃないですか。

松島先生:はい残念、ハズレー。社会保険は大きく分けて全部で5種類あります。

社会保険は大きく分けて5種類ある

 ひと口に「社会保険」と言いますが、保険料の天引きが給与明細に載っている社会保険は、少なくとも3種類あります。

 第1に、給与明細に健康保険料とあるのが「公的医療保険」。通常、病気やケガでかかった医療費を3割負担で済ませてくれるという、おなじみの保険です。第2は、給与明細に厚生年金(保険料)とある「公的年金」。高齢になったときに老齢年金がもらえる保険です。以上2つの保険は「公的」と付けることで、保険会社などが提供する民間の医療保険や、年金と区別しています。第3の「雇用保険」は、会社員が失業したときに生活を安定させる手当や、再就職の支援が受けられる保険です。基本の手当は「失業保険」と呼ばれることもあります。

佐藤さん:ほら、3種類でしょ。ほかに何があるんですか?

松島先生:あと2つの社会保険が給与明細に載ってないのは、その保険料が、佐藤さんの給料からは天引きされていないからです。

「労働者災害補償保険」、通称「労災保険」と呼ばれる保険があります。これが第4の社会保険で、仕事によるケガや病気、通勤途中にケガをしたときなどの保険です。給与明細に出てこないのは、保険料が全額、会社負担だから。天引きされることはありません。

 そして最後は「介護保険」。何かの事情で介護が必要になったときに、介護サービスが受けられる保険です。介護保険料は40歳から徴収されるので、20代の佐藤さんはまだ天引きされていないわけです。

 この5つが、広い意味の「社会保険」です。ちなみに、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つをまとめて、狭い意味の「社会保険」と呼ぶことがあります。また、労災保険と雇用保険をまとめて「労働保険」と呼ぶこともあるので、覚えておきましょう。

佐藤さん:へえー、ローサイとか介護保険も社会保険に入るんだ。……いや、種類が多いからって、高い保険料を天引きしていいわけじゃないでしょ!

松島先生:まぁまぁ。社会保険料が高いかどうかはあとにして、佐藤さんの給料から社会保険料が天引きされているのには、ちゃんと理由があります。

佐藤さん:理由って?

松島先生:それは、佐藤さんが勤めているのが会社で、人を雇っているからです。

佐藤さん:は?どういうことですか?

すべての会社には
社会保険に加入する義務がある

 先ほど「狭い意味の社会保険」と書いた健康保険・厚生年金・介護保険は、原則として、本社・支店・工場などの「事業所」を単位に加入します。そして事業所には、必ず社会保険に加入しなければならない「強制適用事業所」というものがあります。

 そして、「法人」の事業所はすべて、社会保険の強制適用事業所です。この場合、社長1人の会社も例外扱いはされません。つまり、会社の事業所はすべて、健康保険・厚生年金・介護保険に加入しなければいけないわけです。

田中社長:ちょ、ちょっと待ってくださいセンセ!

松島先生:あれ、田中社長。どうしました?

田中社長:ウチはその昔、私とカミサンで会社を始めましたが、2、3年は社会保険に加入しませんでした。社長1人という会社もたくさん知ってますが、国民年金、国民健康保険というところがいっぱいありますよ。

佐藤さん:いっぱいあるんじゃ困るなあ。私が言うのも変だけど、これまでそういうところは、行政もあまり細かく言わなかったんですよ。でも今はかなり厳しく加入に圧力をかけてきてます。悪質な場合は立ち入り調査もあるようですよ。

田中社長:そうなんですか……。私はてっきり、超零細企業は加入しなくてもいいものだと思ってましたよ。

松島先生:年金機構が、国税庁から給与所得の源泉徴収をしている会社のデータを取り寄せて、そこから厚生年金未加入の会社をリストアップしたという報道がありましたね。これから、未加入の会社にはどんどん圧力がかかるかもしれませんよ(→連載第1回参照)。

佐藤さん:コワい……。

梅田先生:そもそも厚生年金と健康保険は、半分は会社負担でしょ。1人社長は負担しなくてもよくて、たとえば社員5名になると加入、というのは不公平だからね。

松島先生:あれ、梅田先生まで、いつの間に。

梅田先生:いや、田中社長がワイワイ言ってるもんだから……。

田中社長:佐藤くんの気持ちもわかるが、同じだけの金額を会社も負担しているんだぞ!

梅田先生:そういうこと。実際にここのところ、年金機構から「あなたの会社は厚生年金に入るべき会社です」という文書が送られてきているみたいだよ。

佐藤さん:それって、督促状みたいですね。

松島先生:加入は法律で決まってるものですからねぇ。でもそういう文書がいきなり届いたら、びっくりするでしょうね。

田中社長:1人社長の会社の中には、年商500万円ぐらいのところもありますから。社会保険の負担は、かなり大きいですよ。

梅田先生:負担が大きいからといって免除はされないということだね。税金も同じだけど。負担がキツすぎるようなら、個人事業にしたほうがいいでしょう。

 社員本人負担分の保険料は、会社が毎月の給与などから天引きして徴収し、会社負担分とあわせて納付することになっています。

 社員が多いと、その分、会社の負担も大きくなります。佐藤さんのように天引きされる額が大きいと思う社員は多いと思いますが、会社も同じぐらい負担しているわけですね。

松島先生:ただし、労働保険は、社長1人の会社ならば加入の義務はありません

 労災保険・雇用保険(労働保険)も、加入しなければならない「当然適用事業」があります。それは、労働者を1人以上使用している、法人と農林水産業以外の個人事業主です。ただし、労働保険に関しては、社長1人の会社は適用外となります。

松島先生:今までの話をまとめると、田中デザインは、狭い意味の社会保険の「強制適用事業所」です。そして同時に、労働保険の「当然適用事業」です。

佐藤さん:僕は、面倒な社会保険事務から絶対に逃れられないということか……。

 (続く)