フィンランドのモデルを日本に輸入
「虫歯が減る」効果をを可視化した

 そこで私たちが提案したのは、虫歯が減っても困らないビジネスモデルです。治療型から予防型への転換です。その当時、すでにフィンランドやアメリカでは予防型のビジネスモデルで成功していました。フィンランドやアメリカの人たちは、歯科医院へ虫歯の治療に行くのではなく、定期健診により虫歯にならないために通っていたのです。

 日本の虫歯の有病率は、常に人口の約1割といわれていて、1人の患者が治療に訪れるのは平均すると3~5年に1回です。しかし、予防歯科が普及すると、定期健診のために高い頻度で来院するようになります。

 そうなると、1回の利益は低くても経営が成り立つようになります。また、ホームドクター(かかりつけ医)としての関係がつくれると、患者本人だけでなく、家族、友人へと広がる可能性もあります。歯科衛生士は医療行為である歯科治療をすることはできませんがブラッシング指導などの予防行為を行うことは認められており、人材リソースの有効活用という点でもメリットがあります。

 ただし、予防型に転換するには大きな課題がありました。それは、予防には保険が適用されないことです。保険診療に慣れている日本人は、保険が適用されないとなると、とたんに財布のひもが固くなります。要するに、生活者に予防のためにお金を払ってもらうには、虫歯が減るという裏付けと目に見える結果が必要だったのです。

 ここで、キシリトールガムの登場です。キシリトールは、当時、唯一虫歯菌を減らすことが世界中の臨床研究で証明されている成分でした。虫歯菌の多い日本人は、虫歯菌が減ると虫歯になるリスクを格段に抑えられます。

 もちろん、「キシリトールガムをかむと虫歯になりませんよ」と言ったところで、本当に虫歯菌が少なくなっていることが確認できなければ、誰も信じません。そこで、私たちは歯科商社と組んでフィンランドから虫歯菌の数を計測できる機器を輸入し、歯科医院で測れるようにしました。キシリトールガムの効果を、患者が直接確認できるようにしたのです。

 歯科医は、虫歯の治療に来た患者の虫歯菌の数量を測定し、虫歯菌を減らす方法としてキシリトールガムをおすすめする。そして、「1カ月後、もう一度測ってみましょうか」と提案。1カ月後、その効果を確認できた患者は、またキシリトールガムを購入し、数カ月後歯科医院を訪れて虫歯菌の数を測る。この一連のプロセスをきっかけとして、正しいブラッシングなどの指導も行い口腔内ケアの意識も高めることができるようになります。