巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。
大企業であっても、効果的にSNSを使えている例はほとんどない
X(旧ツイッター)やインスタグラム、TikTok、YouTubeなど、さまざまなSNSに企業がアカウントを開設することは今ではごく当たり前のことになりました。
SNSでバズれば、サイトへの訪問者が増え、売上も増えるのではないか。これからは、SNSマーケティングだ……。
そんな風に考えて、毎日のようにSNSに頑張って投稿している担当者も多いのではないかと思います。
売上を増やすDXという本書の観点から、SNSはどのように扱うのが効果的でしょうか。フォロワー数や「いいね」の状況について、きちんと分析すべきでしょうか。
結論から申し上げますと、「SNSは放っておきましょう」ということになります。
もちろん、ファッションや化粧品といった、SNSとの親和性が非常に高い商品を扱い、SNSマーケティングに本格的に力を入れて、インフルエンサーを巻き込んで大きなキャンペーンを張ったりしているというのなら話は別です。
しかし、大企業であっても、効果的にSNSを使えている例はほとんどないのが現状です。
「そうは言っても、SNSで話題になっている投稿があるじゃないか」「SNSがきっかけでヒットした商品の記事を読んだぞ」、そう言いたくなるかもしれませんね。でもそれは、極めて珍しい例だから記事になっているのです。
美しい自然の中に自社製品を置いて、プロフォトグラファーに撮影してもらう。
面白コンテンツの得意な専門の担当者をアサインして、毎日投稿してもらう。
SNS上で大喜利企画を開催して、ユーザーから投稿を募る。
そうした企画は、ものによっては1件当たり100万円単位でお金がかかることもザラですが、ではその効果はいかほどでしょう。
SNSで話題になった投稿があったとしても、それが企業サイトでの購買行動に結びつくことはまずありません。SNSの投稿がどのような影響をもたらしているかについて、私もいろいろな企業のデータを分析してみましたが、購買と紐付けられるような効果は認められませんでした。仮に大規模なSNS上のキャンペーンを実行したとしても、実際の購買行動と結びつけられるのは、ほんの一つまみのパターンだけでしょう。
企業の公式アカウントがフォロワーや「いいね」をいかに増やそうが、売上とは無関係です。
面白投稿で話題の企業アカウントもありますが、そうした企業の業績がSNSで良くなっているかといえば、そんなデータはありません。SNSの投稿によって企業イメージが良くなり、よい人材が採用できた……といった副次的な効果が出ている可能性もゼロではないでしょうが、それが本当にそうなのか答えられる人はどこにもいません。優秀なエンジニアをSNS採用するために専任の担当者を置いてダイレクトリクルーティングを行うなど、明確な意図があってSNSを使っているのなら別ですが。
企業の公式アカウントで行うのは、せいぜいプレスリリースの投稿や、自社製品について好意的に触れている投稿をリツイートするくらいで十分。
公式アカウントで話題づくりをするより、インフルエンサーが一言ツイートしてくれた方がよほど費用対効果の高い施策になります。
※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。