巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。
顧客は企業理念やブランドストーリーにまったく興味がない
以前、ある企業のサーバー販売サイトの改善を請け負ったことがあります。このサイトでは、商品説明ページがよく見られていて、滞在時間も長かったのですが、問い合わせ件数が頭打ちになっていました。そこで、思い切って掲載されている情報を絞り、サイトの構造をシンプルにしました。その結果、滞在時間は3割減ったのに、問い合わせは3倍に増えました。このサイトの商品説明は長たらしく、何だかよくわからない内容だったため、問い合わせに繋がっていなかったのです。
私の経験では、アパレルなどのECサイトでは、滞在時間が長い方が売上が伸びる傾向がありました。これは、訪問者がたくさんのアイテムを見ているうちに、気持ちが盛り上がっていったのではないかと解釈できます。これに対して、携帯電話のサイトであまりにもプランが多くて複雑だったら気持ちが萎えてしまいますね。自社のサイトで滞在時間と売上がどのような関係にあるのかを一度確かめておくのも無駄ではないでしょう。商品の特性によってだいたい見当が付くことではありますが……。
企業の担当者によっては、顧客に自社の「思い」が伝わっているかどうかを気にする人もいます。
ものすごく力を入れて「社長の企業理念」や「開発者のこだわり」のようなブランドストーリーのページを作った。これを見てもらえればユーザーはきっと我が社のファンになってくれるに違いない。「思い」が伝わっているかどうか、データからわからないか……。
あなたの気持ちはわかりますが、残念ながら顧客は企業理念やブランドストーリーなどにまったく興味を持っていません。例えば、友達とバーベキューパーティをやるためにクラフトビールを注文するとしましょう。そんな時に気にするのは、価格の他、どんなフレーバーなのか、ちょっとテンションの上がるパッケージかどうかといったことではないでしょうか。
もちろん、商品ページにおいて、その商品の特徴を最大限魅力的に伝えることは重要です。しかし、企業理念やブランドストーリーのページを用意したところで、ユーザーの購買行動がそれに影響されることはありません。
※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。