会議ではお互い真剣だからこそ、主張が異なる者同士でケンカ腰になってしまうことがある。イチ参加者であればしばらく様子を見ていればいいかもしれないが、自分がファシリテーターだったとしたら、傍観しているわけにもいかない。『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』の著者で、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた人気ファシリテーション塾塾長・中島崇学氏はそんな「荒れた空気を変えるひと言がある」という。それは一体どのようなものか。本記事では本書の内容をもとに解説していく。(構成:神代裕子)
口論になった会議を落ち着かせるには
会議には様々なポジションの人が参加する。
部署を横断した会議もあるので、当然立ち位置が違えば主張も異なる。それぞれが熱心であればあるほど、意見が衝突した時に口論のような状態になってしまうこともある。
そのような状況だと、お互いヒートアップしていて引くに引けない状態になっているから、周りも口を挟みにくかったり間に入るのも大変だったりする。
こんなことが自分が仕切っている会議で起きたらどうすればいいだろうか。
中島氏は、「『まあまあ、感情的にならず、冷静にいきましょう』と取り繕う言葉をつい発しがちですが、何の役にも立ちません」と指摘する。
さらには、最悪の場合、「いい加減なことを言ってごまかすな!」と火に油を注ぐことになりかねないという。
ファシリテーターとしては、どちらの顔も潰さずに、良い議論として発展させて場を収めたいはずだ。
社会的欲求を満たすことで、落ち着かせる
こういった状態になっている場合、順番に解きほぐしていくことが大事なのだと中島氏は語る。
ここでポイントになるものとして、中島氏は心理学者のアブラハム・マズローの「人の五大欲求」をあげる。
ご存じの方も多いと思うが、「人の五大欲求」は次のようなものだ。
①生理的欲求
②安全の欲求
③社会的欲求(愛・所属の欲求)
④共感・承認の欲求
⑤自己実現の欲求
ケンカ腰になっている人に対しては、③「愛・所属の欲求」が満たされるように対応するのが大事なのだそうだ。
この言葉には4つ目の共感・承認欲求も含まれます。「あなたの意見はあなたの本気から出ているものだ」というメッセージが込められているからです。
「本気だからこそ熱い意見が出てくるし、対立することでいろんな角度から意見を検討できますね。軋轢が生じるのは健全なことです」
このようにしっかりと、「どちらの発言も素晴らしい」と努力をたたえ、「議論を進めるために必要なことだ」と意味付けします。(P.173)
さらに、「ここまで真剣に意見を出し合ってくださって、ありがとうございます」という感謝の言葉や、「おかげで相互理解が深まりましたね」という、意義のある話し合いだったと意味づけまで行えれば盤石、とのこと。
確かに、こういった声かけをすると、対立関係にあった人たちも、まずはお互いが「同じゴールに向けて考えているチームである」ということを思い出すだろう。
しかも、間に挟まれて困っていたはずの進行役が感謝まで伝えてくれる。そんな中でケンカを続けられる人はなかなかいないはずだ。
対立構造を作るのは「名前」にあった
また、異なる意見が出てきた時に、そもそも対立構造にならないようにする方法があるという。
それは、「異なる意見を検討するとき、発言者の名前をつけないこと」だと中島氏は指摘する。
例えば、「小林さんの意見と伊藤さんの意見、どちらがいいでしょう?」と聞いてしまうのはNGだ。
言われてみれば確かに、自分の名前がついた案を却下されたり、支持されなかったりすると気分が良いものではない。では、どうするか。
それは、「発言者と意見を分けて検討するのがいちばん」なのだそうだ。
「小林さんの意見と伊藤さんの意見」「営業部の意見と開発部の意見」などと、発言者と意見はいっさい紐付けしない。
「1案と2案」「a案とb案」のように抽象化するのです。(P.177)
確かに意見を出し合う際、「a案は……」「b案だったら……」と話す方が発言者も忌憚のない意見が出せそうだ。
会議のメンバーは同じゴールを目指す仲間
これらは、ちょっとした気遣いで対立構造を回避できる、非常に取り入れやすいアイデアなのではないだろうか。
逆にいうと、ただ自分の名前が冠としてついているだけでも、その人のプライドに関わってくるというのがよくわかる例だ。
あくまでも、共に目指しているのはより良いゴールであり、この場にいる人たちは皆、一緒にそのゴールに向けて歩いている仲間であることをしっかり認識してもらう。
そのこと自体が、良い会議を生み出す近道なのかもしれない。