部下にとって「機嫌の悪い上司」ほどめんどくさい存在はない。どんなに仕事ができる人でも、それだけでリーダーとしての資質に疑問符がつく。それほどまでに「機嫌のよさ」は大事なのだ。
では、どうしたら「自分の機嫌」をコントロールできるのか。『Deep Skill ディープ・スキル』では、機嫌をマネジメントする方法として「3つのポイント」を紹介している。リーダーやマネジャーならぜひとも意識したい「3つのポイント」。どれもシンプルで、すぐに実践可能なので、ぜひこの3つを理解して「自分の機嫌」のマネジメント力をアップさせたいところ。それだけで、リーダーとしての質は一段も二段も上がるだろう。(構成:イイダテツヤ)
どんなリーダーが「求心力」を持っているか
リーダーやマネジャーにとって「求心力」は欠かせない要素である。
組織のなかには、一人で黙々と仕事をし、高いクオリティを維持している、いわゆる“職人気質”の人がいて、このタイプは求心力がなくても基本的に問題はない。
しかし、それ以外の人たち、特にリーダーやマネジャーとなる人たちに求心力は欠かせない。端的に言えば「人が寄ってくるかどうか」が大事なのだ。
この違いは職場を観察してみれば一目瞭然。何かと声をかけられたり、人が集まってくるタイプの人と、周りにいつも誰もいないタイプ。すぐに見分けがつくだろう。
では、求心力があるタイプとはどんな人か。この点について『Deep Skill ディープ・スキル』には非常に興味深い記述がある。
一方で、いざというときには毅然とした決断をする「胆力」や、スジの通らない主張する相手に対して堂々と反論する「強さ」も重要。「頼り甲斐」のある人物でなければ、人は寄ってはきません。(P.154)
このように「求心力」には、いろいろな要素があるようだ。
しかし、それよりもっと大事な、もっと根本的なことがあると著者の石川さんは語っている。それが「機嫌のよさ」。
そう言われて「えっ、機嫌のよさ?」と少々拍子抜けする人もいるかもしれない。
一方で「たしかに!」「絶対それだ!」と強く共感、賛同してくれる人も多いのではないだろうか。「機嫌の悪い上司」ほど、タチが悪く、めんどくさい存在はない。
機嫌のいいときは「傾聴力」や「優しさ」を発揮してくれても、職場で躊躇なく不機嫌さを振り撒く人は信用できない。
部下やチームメンバーにしてみれば、いちいちその人の機嫌を確認したり、機嫌をとったりしなければならないのだから、ストレスがかかるし、余計な仕事が増えている。
リーダー、マネジャーに求められる第一の資質は「機嫌のよさ」と言っていい。言い換えれば、自分の機嫌をマネジメントする能力だ。
自分の機嫌をマネジメントする「3つのポイント」
では、どうやって「自分の機嫌」をマネジメントするのか。本書ではそのやり方を3つ挙げている。
一つ目は「自分を知ること」。
これはじつに単純で「今の自分の機嫌はどうかな?」と常にモニタリングをする。これだけだ。
単純でありながら、この意識づけには大きな効果がある。どんな人でも「あっ、今自分は機嫌が悪いんだな」「機嫌の悪さを周囲に撒き散らしているな」と気づけば、少しは直そうとする。
そんなふうに意識を自分に向けた瞬間、客観的になり、機嫌のコントロールが(多少は)できるのだ。
誰だって、常に機嫌よくいることは難しい。忙しかったり、トラブルに見舞われたりすれば、機嫌が悪くなる(というより、自分の機嫌に気が回らなくなる)のは避けられない。
大事なのは、その状態のまま機嫌の悪さを周りに撒き散らすか、それとも、その瞬間に「あっ、今自分は機嫌が悪いんだ」と気づき、意識できるか。その差が大きいのだ。
そして、二つ目は「できるだけ”仕事”を手放す」。
余裕があって機嫌がいいリーダーと、余裕がなくて機嫌の悪いリーダーを比較してみると、たいてい後者は仕事を抱えすぎている。時間的にも、労力的にも、いっぱいいっぱいなのだ。
そんな状態で「機嫌よくいよう」と言われても、無理な話。人の心理から見ても、限りなく不可能な相談なのだ。だからこそ、仕事を手放す。
リーダーやマネジャーにとって「機嫌よくいる」のは重要な仕事であり、責任である。
その重要な仕事や責任の足を引っ張っているのが、仕事量であったり、「抱え込みすぎ」だとしたら、そこを改善するのは当然だ。
仕事量が原因で不機嫌になっているリーダーは、自分の役割を果たしていないとも言えるのだ。
そのリーダーに実力や優しさ、胆力や頼り甲斐があったとしても、「機嫌のよさ」がないだけですべてが台無しになってしまいかねない。できる限り仕事は手放したいところだ。
最後の三つ目は「トラブルは必然的に起きる」と腹をくくること。
「なんだ、そんなことか」と感じた人もいるかもしれないが、そういう人は、このメッセージの本質を理解していない。
リーダーが「トラブルは必然的に起きるもの」との前提を持って部下と向き合っているか、そうでないかはものすごく大きな差となる。
たとえば、部下が何か失敗をして、トラブルが生じたとしよう。
このとき部下は「自分の責任問題になるのではないか」「怒られるのではないか」「見限られるのではないか」などの恐怖心を持ちながら、上司に報告してくる。
この瞬間、上司がほんのちょっとでも不機嫌さを示したら、部下の心に強いインパクトを残す。
これは本当によくある話で、上司にしてみれば、一瞬不機嫌になっただけ、その後すぐに冷静さを取り戻し、部下と向き合っているつもりでも、部下はその一瞬を見逃してはいない。
すると部下はどう思うか。
「あの上司は口には出さないけど、内心では自分の評価を大きく下げているはずだ」と思ってしまうのだ。するとそれ以降、その部下は上司に対する恐怖心が芽生え、トラブルを報告するのを躊躇したり、挑戦することを避けるようになる。
だからこそ、上司はその一瞬が大事なのだ。
そのためにも「何をしていたって、トラブルは必然的に起きるのだ」という前提で部下と向き合うことが重要となる。なぜなら、そう腹をくくっておけば、部下がトラブルを起こしたときにも、「起きるべきことが起きたのだ」と平常心で事態を受け止めることができるからだ。
もちろんトラブルの報告を受ければ、多かれ少なかれネガティブな感情はどうしたって湧いてくるが、その感情に飲み込まれることなく、うまくやり過ごすことができるようになる。
ここまで述べてきたことを端的に表現しているのが、次の一文だ。
改めて、ポイントをまとめてみよう。
・自分を知ること
・できるだけ仕事を手放すこと
・「トラブルは必然的に起きる」と腹をくくること
機嫌よくいることができれば、それは、あなたのマネジメント能力があがったということだ。取り組む価値はあると言えるだろう。いきなり仕事を手放すのは難しいと思うので、まずは「自分を知ること」から始めてみてはいかがだろうか。