司会進行という役割はなかなかの大役だ。小さな会議だったとしても、周囲を巻き込んで進めなければならないのだから、かなり頭も使うし気も遣う。活発に発言してくれる人ばかりならいいが、そうではない場合に発言を促すのも気が重い。そんな時にどうしたらいいかを教えてくれる本が、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた人気ファシリテーション塾塾長・中島崇学氏の著書『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』だ。本記事では、本書の内容をもとに、発言しやすくなる会議の進行方法を紹介する。(構成:神代裕子)
「順番に発言させる」はNG行為
「会議の司会、大好きです!」という人はいるだろうか? もちろんいるとは思うが、多数派ではないように思う。
なぜなら、参加者の気持ちを掴んで、しっかり話し合いに参加してもらい、活発な意見交換を促しながら話をまとめて、ゴールに導く立場だからだ。
こうして役割を眺めるだけでも、なかなかの重責だ。だから、「得意です!」「大好きです!」と自信をもって言える人ばかりではないだろう。
とはいえ、リーダー職やプロジェクトマネージャーなどを任されると、ファシリテートしなければならないシーンは多々ある。
筆者も経験があるが、なんとも気が重たいものだった。特に厄介なのが、なんとなく「発言するのが面倒臭い」という空気になっている場合だ。
指名して発言してもらう方法もあるが、嫌な顔をされるとこちらも傷つく。
そうなると、次にやりがちなのが「○○さんから順番にご意見を聞かせてください」という方法だ。
しかし、中島氏はその方法にストップをかける。
発言を促す「バトンタッチ方式」
中島氏は「『順番』ほど人を緊張させ、空気を冷たくするものはありません」と指摘する。
なぜなら、順番がわかっていると人は身構えて防御態勢になるからだという。さらに、「当たり障りのない発言しか出てこなくなる」というのだから確かに良い方法ではないのだろう。
さらに、順番で回すと他にも弊害が起こる。
そこで、中島氏が勧める方法は「バトンタッチ方式」だ。
そうやって指名された人が発言したら、その人が「じゃあ、次は小林さんを」などと指名し、発言のバトンタッチをしていきます。(P.73)
これは、指名されることで「推薦された」という状態になるのが良いのだと、中島氏は解説する。「指名されるのは光栄なことだ」と感じるのだという。
これなら、次に誰が指名されるかわからないし、参加者もやらされ感より、「推薦されるかも?」というほどよい緊張感を感じることができそうだ。
「私たちは○○したいですね」は魔法の言葉
司会をしていると、「積極的に意見を出してください」とか「そろそろまとめに入ってください」などと言いがちだ。
しかし、中島氏によると「丁寧な表現でこちらの希望を伝えても、相手にはかなり強い要請として伝わってしまい、それが場の空気を重くする」という。
進行しなければならない側からすると「どうしろというのだ」と思ってしまいそう話だが、こういった要求というのは「人を自分の思うように動かしたい」という気持ちであり、強制された側は不快に思ってしまうものなのだ。
そこで中島氏が勧めるのは、「私たちは○○したいですね」という言い方だ。
ポイントは、この「私たちは」にある。
これが「みなさんは○○したいんですよね」と言うと、「決めつけないで!」と反発の反応が出てくるのだそうだ。主語一つでこんなに変わるのは、実に興味深い。
参加者と司会者で、共に同じゴールを目指す
余談だが、「私たちは」という主語になると、なぜか一体感が生まれる感覚は、筆者も経験がある。
以前、ある女性から忙しくてなかなか進められていなかった案件に関して指摘されたことがあった。
彼女は「○○さんは忙しいからなかなかできないんだと思うんだけど」と言ってしまいそうなところを「私たちって忙しいじゃないですか。だから、なかなか手をつけられないと思うんだけど……」と言ったのだ。
言っている内容は同じなのに、主語が「私たち」になるだけで、「私とあなたは同じ立場だよ」という意味合いになる。
この言い方だと責められた感覚もなかったし、その立場から言われるだけですんなりと受け入れられた。人の気持ちとは不思議なものだ。
ファシリテーションも同じなのだろう。「司会」と「参加者」になってしまうのではなく、「同じゴールを目指す仲間」として、意見を言ったり結論を出したりする。
そのことを意識して言葉を選べば、やわらかい雰囲気で会議が進んでいくのではないだろうか。