自動車産業の中心地デトロイトの有力者たちは、この仕事はタフで利益が出にくいかもしれない、と米アップルに警告した。だが、生きた化石のような彼らの見解には誰も耳を傾けたがらなかった。アップルは逆に、ソフトウエアとハードウエアを切れ目なく融合させ、時代錯誤の連中を置き去りにする自動車の新時代が到来しつつあるという、シリコンバレーのお祭り騒ぎに乗った。結局、アップルにとって独自の自動車を製造することは、独自のテレビをつくるのと同じくらい難しかったということだろうか。テレビ開発の夢は何年も前についえたが、今週になって同社幹部は、電気自動車(EV)を発売する計画も中止すると開発担当チームに伝えた。この最新の撤退例は、イーロン・マスク氏率いるEVメーカー、テスラの成功が、いかに確率の低いことであるかを浮き彫りにする。20年前に創業した同社を、独高級車メーカーBMWの年間販売台数に間もなく肩を並べるほどの立派な自動車メーカーに育て上げることは、アップル独自の車をつくる計画がスタートした10年前には想像し難かったことだろう。