価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【アイデアを生みだす技術】あの天才や偉人たちは、アイデアにどうアプローチしていたのか?Photo: Adobe Stock

アイデアは、天から降りてくる閃きか?

 アイデアにおける偉人というのは、多くいます。私は、トーマス・エジソンや平賀源内、ヘンリー・フォードなどが好きで、昔から彼らに憧れていました。

 彼らを勝手に天才と崇めて、彼らのように「天から降りてきたような閃き」でなければいけないと思っていました。しかし、それがブレーキとなっていたのです。

 ほんの小さなアイデアでも、ちょっとした気づきのアイデアでも、「いいアイデア」につながる可能性があるものなのに、自分の中で「取るに足らないもの」と切り捨ててしまっていました。

 自分と天才たちの間には、何かまったく違う才能のようなものがあって、フツーの自分にはアイデアなんて出せないと思い込んでいたところに、アイデア発想にブレーキをかける要因がありました。

 私は、アイデアもアートも同様に、ゼロから何かを生みだすもので、閃きのような発想は、天から降ってくるようなものだと考えていたのです。

 しかし、あるときから少しずつ、それはちょっと違うと考えるようになってきました。いろいろな業界で活躍しているクリエイターやアーティストは、私が想像しているような天才とは違い、陰で地道な努力をしていることがわかったからです。

 その頃から、クリエイターやアーティストと出会ったときに、同じ質問を投げかけるようにしています。
過去の作品や事例を見て、勉強をするのですか?

 すると、どうでしょう。皆さん例外なく「勉強している」という答えが返ってくるのです。

 しかも、活躍している人ほど、マニアックなレベルで、頭の中に過去の作品や事例がアーカイブされていることがわかりました。

天才に思えるアーティストたちも
陰で地道な努力をしていた

 過去の偉人たちの言葉を探してみると、彼らの考えには共通したものが見えてきます。

「芸術とは盗むことだ」パブロ・ピカソ
「僕がじっくり鑑賞するのは、盗めるところがある作品だけだ」デヴィッド・ボウイ
「何かを『オリジナル』と呼ぶやつは、十中八九、元ネタを知らないだけだ」ジョナサン・レセム(小説家)
「とてもいいと思った誰かのコピーをしよう。真似して、真似して、真似して、真似していると、自分が見つかる」山本耀司
「何もまねしたくないなんて言っている人間は、何もつくれない」サルバドール・ダリ

 当然ながら、彼らが言っているのは「パクリ」とは違います。

 この部分については後で詳しく述べますが、過去の作品からその構造や技を自分で使える道具にしたり、既存の考え方や要素を発展させたり、既存のアイデアとアイデアや要素同士を組み合わせたり、というところにアイデアがあると言っているのです。

 アイデアは、まったくのゼロから生みだすものではないのです

 そう考えると、少し肩のチカラが抜けてきませんか。

 勉強していくことが大事、と言われると、真面目な自分にもチャンスはありそうだ、と私は思うようにしています。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。