アイデアが思いつかない」「企画が通らない」「頑張っても成果が出ない」と悩む方は多くいます。その解決のヒントになるのは、世の中にある「優れたアイデア」です。『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』の著者、クリエイティブディレクター中川諒氏が、「今の時代に、人に評価されるビジネスアイデア」を分析し、そこから学べることを紹介します。

本当にかしこい人は「定義」を変えているPhoto: Adobe Stock

「シンプルすぎる」ものは「定義」を変えて工夫する

カンヌ映画祭が終わった6月、世界中の広告クリエイターが鎬を削った「仕事」がフランスのカンヌに集まります。広告業界最大の祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」です。記念すべき70周年となった2023年は、86ヵ国から2万6千を超えるエントリーが集まりました。そこから受賞できるのは、そのなかの3%にすぎません。

本記事では、カンヌライオンズ受賞作から、とくに「ビジネスアイデアが際立ったもの」を分析し、「私たちが学ぶべきところ」を解説します。

今回紹介するのは、アメリカのクリームチーズのブランドであるフィラデルフィアが行ったスマートな工夫です。

アイデアはTAXFREE BAGEL「“ベーグル税”のかからないベーグル」というものです。

通常スライスしてクリームチーズを挟むのが一般的ですが、このベーグルは最初からベーグルにクリームチーズをシュークリームのように注入した形で販売しています。

挟むのではなく、注入しただけで税金がかからなくなるというのは一体どういうことでしょうか。

「ベーグルの本場」とも言えるニューヨークでは、8.875%の「ベーグル税」がかかっているというのです。

これを理解するためには、ニューヨーク州の消費税について知る必要があります。

ニューヨーク州では、チョコレートなどの甘いお菓子や炭酸飲料、酒類を除く食料品には軽減税率が導入されており、通常8.875%の消費税が非課税となっているそうです。

最低限生きるために必要な食料には、生活を保証するために税金をかけないという考え方なのだと思います。

この事例に戻ると、ベーグルをスライスすることで調理済み食品の分類に入ることから「食料品」ではなくなるため、ニューヨーク州通常の消費税8.875%がかかっているということになります。それを彼らは「ベーグル税(笑)」と言っているのです。

僕がアイデアを考えるときの思考フレーム「工夫の4K」に当てはめてみると、以下のようになります。ちなみに4Kとは、改善・解決・解消・回避の4つのKです。

まずうまくいっていない問題を抱えている「現状」、そしてその問題を引き起こしている「原因」、さらに「理想」の状態を整理していきます。

通常はそのあと、現状にアプローチする「改善」、原因にアプローチする「解消」、理想にアプローチする「解決」、そして全く違うアプローチを考える「回避」をそれぞれ考えていきますが、今回は実際に行われた解消策なので「解消」だけ埋めていきます。

「解消」は「そもそもこれって~できないかな?」と根本に立ち戻って考える工夫です。

現状:クリームチーズを挟んだベーグルを買うと8.875%もの「ベーグル税」(消費税)がかかってしまう

理想:美味しいクリームチーズ入りのベーグルをできるだけ沢山の人に楽しんでもらいたい

原因:税法上調理した食品には消費税がかかってしまう。
←解消:そもそも非課税で販売できるチーズを注入した状態で商品化できないか。

本当にかしこい人は「定義」を変えている

たとえベーグルをカットしてクリームチーズを挟むだけであったとしても、調理にあたることで税金がかかっているという面白い発見から、それを「ベーグル税」と言い換えるという表現に落とし込み、そこから商品開発をしている秀逸なPRアイデアだと思います。

チーズを挟んだベーグルという一見新しい工夫の余地がなさそうなシンプルな商品であっても、まだまだ工夫の余地があるという勇気を与えてくれる事例でした。

(本記事は『発想の回路 人を動かすアイデアがラクに生まれる仕組み』を参考に、著者が分析した書き下ろしです)