多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。
「曖昧言葉」をスルーしてはいけない
相手の話を「傾聴」するときには、話し手が話題の「回避」や「転換」のために無意識に使う「曖昧言葉」を、見逃したりスルーしていはいけません。
「それって、どういうこと?」と質問しなければなりません。要するに、突っ込むのです。例えば、「……まぁ、彼はいつもあんな感じですから……」と曖昧言葉で言われたとしたら……、その言葉を曖昧なままでスルーせず、すかさず突っ込みを入れるのです。
聞き手「あんな感じって、どんな感じ?」
話し手「いつもこちらの質問に答えてくれないんです……」
これで曖昧言葉が少しはっきりしました。「あんな感じ」とは、「こちらの質問に答えない」ということであることがわかったのです。
しかし、これで満足してはいけません。
「曖昧言葉」をひもとくと、「本音」が見えてくる
この回答にはまだまだ「曖昧」が存在します。そこで妥協せずに質問を続けます。
聞き手「彼はこちらの質問へ答えずに、何をするの?」
話し手「質問とは関係がない、自分が言いたいことを主張するのです。それは私の質問の答えには全然なっていないのに……」
また一つ明らかになりました。さらに質問します。
聞き手「それに対して、あなたは何と言うの?」
話し手「……いつもあきらめて無言になります。どうせ話してもムダですから……」
これでようやく、おぼろげながら全体像が見えてきました。
「……まぁ、彼はいつもあんな感じですから」という曖昧言葉をひもとくと、二人が繰り返してきたパターンと、暗に存在する話し手の「本当の思い」が見えてくるのです。
「根掘り葉掘り聞く」こととは全然違う
僕は企業研修受講生に対して、「曖昧言葉」を明らかにする質問をせよと指導します。
すると、多くの場合、皆さんは戸惑います。「根堀り葉堀り質問したら嫌がられるのではありませんか? 質問ではなく詰問になってしまうのではないでしょうか?」と。だけど、それは違います。なぜなら、「根掘り葉掘り」というのは、相手が答えたくないことを質問することだからです。
僕が提唱するのは「曖昧に」表現されたことを「明解に」表現し直すこと。つまり、相手の「本心」を探すサポートをするのです。
「本物の傾聴」においては、相手が無自覚、無意識のまま「曖昧に」して目を背けていることを「明らかに」していきます。すると、そこに気づきが起きる。
その気づきとは「問題の原因」や「解決策」の気づきではありません。本当の自分の気持ち。自分が本当はどうしたかったのか、どうしてほしかったのか。自分の本心にきちんと目を向け、それを一切否定せず認め共感するのです。
それこそが本当の意味での「自分を大切にする」ということ。すると、自己否定や禁止令が解け、ごく自然に自分のしたかった方向性が「降りて」くるのです。
自分の「感情」に気付くのをサポートするのが「傾聴」
例えば、先ほどのケースで言えば、話し手が「……いつもあきらめて無言になります。どうせ話してもムダですから……」と話したの受けて、「そう、僕はいつも無力感を感じていたんだ」「そして、僕に無力感を与える彼に対して、嫌悪感をもっているんだ」「でも……本当は、彼と楽しいコミュニケーションを取りたいんだ」「それができないから、悲しいんだ」などと自分の感情を深く掘り下げていったりするのです。
そうすると、話し手のなかで自然と、「そうだ……やっぱり、あそこで諦めたらダメなんだ。彼の主張はいったん受け止めたうえで、再度、こちらの質問をぶつけたほうがいいな」とか、「彼が答えざるを得ないような”聞き方”ってあるかな?」などと思考が進んでいくのです。
このように、自分の「感情」に気づき、その「感情」を大切にするお手伝いをするのが傾聴です。そのためには「曖昧言葉」をスルーせず、しっかりと確認していくことが欠かせません。「曖昧言葉」のベールの向こう側に、相手の「本音」は隠れています。だから、「曖昧言葉」をスルーせず、その「真意」を確認していくことが大切です。
(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。