不景気が続く日本において、将来に不安を抱えている人は多いだろう。しかし、実は人類の歴史において“経済成長”をしている期間というのはほんの一瞬。大事なのは「お金」の役割や定義を知り、前向きにお金とつきあっていくことだという。ライフネット生命の創業者である著者が働く若者からの質問に答える。本稿は、出口治明『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ社)の一部を抜粋・編集したものです。
国が経済成長し続けるのは
実は「普通」ではない
――日本は90年代以来ずっと不景気で、経済も国の勢いも右肩下がりのようです。「会社にいれば給与が上がる」わけでも、「正社員なら安泰」なわけでもありません。
しかも少子高齢化で、将来年金が支給されるのかも不安。いったい、どう生きていけばいいのでしょうか?
(以下、出口) まず、率直に言えば、質問の前提が間違っています。間違っているというか、勘違いしているんですね。
世の中って、本当に右肩上がりが「普通の姿」なのでしょうか?
たしかに、戦後の日本は高度成長しました。「右肩上がり」の時代が長く続き、なんとなく世の中も明るいムードに満ちていました。給与は上がる、人口は増える、生活はみるみる豊かになる、黙って働けばほとんどの人が出世できる。みなさんからしたら、うらやましい話かもしれません。
けれど、それはどのくらい続いた話だと思いますか?
敗戦が1945年。
そしてバブル崩壊が1991年ごろですから、じつは、50年も続いていないのです。
ここで、時計の針を思いっきり巻き戻して、日本の歴史を振り返ってみましょう。遡ること、縄文時代。教科書では数ページで終わってしまう縄文時代は、およそ1万年前後続いたと言われています。
この1万年もの間、縄文人はすごくリッチな生活を送っていたんですね。
何がリッチかと言えば、気候がよくて、海の幸も山の幸も豊か。彼らは狩りが上手だし、人口もいまよりずっと少ないから、食べ物が足りなくなることも、環境破壊の心配もない。人口は増えも減りもせず、社会の大きな変化もない。平和で豊かに、同じような生活水準で暮らしていたと言われています。日本列島に人類が住みつき、縄文時代がはじまったのが1万4000年~1万5000年前。そのうちの1万年だから、そうとう長い間、安定した暮らしをしていたことがわかるでしょう。
さて、1万年も横ばい状態だった時代と、半世紀にも満たない右肩上がりの時代。
歴史的に見て、どちらが「普通」のことだと思いますか?