このように、貨幣は本来の正貨である金貨や銀貨と交換できるからこそ価値を持っていたのですが(これを兌換紙幣と言います)、日本では1942年、貨幣の価値そのものを、金と切り離して政府が保証するようになりました。不換紙幣、すなわち金と交換できないお金へと移行し、アルミニウムや紙がありがたがられるようになった。これが、いまみなさんが生きている世界です。

 お金の成り立ちについてざっくりと説明してきましたが、どんどん人間がラクできるほうに、便利なほうに進化していったことがわかります。

「価値ある労働」をしたと
証明してくれる「お金」

 ここで、みなさんにとくに頭に入れてほしいのは、(1)の「価値の交換手段」です。つまり、「なぜ大麦をもらえるようになったのか」。

 はじめに大麦をもらえたのは、なぜでしたか?

「いい働き」をしたからでしたね。一所懸命レンガを積んで建物を建てたり道路をつくったご褒美として、当時みんながほしがった大麦がもらえたのでしょう。

 つまり、お金とは、「あなたは価値ある労働をしましたよ。世の中に価値を生み出しましたよ」と証明してくれるものなのです。

書影『働く君に伝えたい「お金」の教養』『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ社)
出口治明 著

 みなさんは、みなさんの労働によってつくり出した価値を、お金という万国共通の尺度と交換しています。それが、職場からもらう給与です。つくり出した価値に見合うものをもらわなければ「ボランティア」ですし、逆に、価値を生み出していないのに給与をもらってしまえば、俗に言う「月給泥棒」になってしまいます。

 経営者側から見ると、給与とは、価値を生み出す従業員に気持ちよく働いてもらい、これからも引き続き価値を生み出してもらうために払う、「労働の再生産のためのコスト」でもあると言えます。

 みなさんはいま、職場に「所属しているから」給与をもらっている、と思っているかもしれません。けれど、本質的にはそうではありません。「価値を生み出しているから」こそ、お金をもらえるのです。

 つまり、価値さえ生み出し続ければ、何歳になっても、食いっぱぐれることはないということです。