トランプに圧勝できる民主党の「最後の切り札」の名前…佐藤優と池上彰が指摘する“奥の手”とは?2月24日のサウスカロライナ州での共和党予備選挙で勝利したトランプ氏。11月の本選挙を見据えて「バイデンはわれわれの国を破壊している。ジョー、おまえは首だ、出ていけ」と述べた Photo:EPA=JIJI

11月の米大統領選に向けた共和党の候補者選びでは、トランプ前大統領が大差をつけてリードしており、本選ではバイデン大統領との対決が見込まれている。トランプ返り咲きで世界情勢はどう変わるのか。池上彰氏を招いてのスペシャル対談編として、佐藤優氏と池上彰氏が語り尽くした。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、ジャーナリスト 池上 彰、構成/石井謙一郎)

プーチンからの応援は
ヒトラーに味方されるようなもの

佐藤 プーチン大統領は2月14日、ロシア国営テレビに出演して、クレムリン番のパヴェル・サルービン記者のインタビューに答えました。最も話題になったのは、米国の大統領選挙で「トランプよりバイデンの勝利を望む」と語ったことです。理由は「より経験が豊富で、予測可能で、古いタイプの政治家だから」。要するに、手の内は全て見えるから御しやすいという意味でしょう。

池上 その通りですね。それを受けてトランプは、「自分こそがロシアと対決できる人物だと、プーチンが認めたんだ」と宣伝しています。

佐藤 バイデンとしては、思いもよらない変化球が飛んで来て、うまく打ち返せずにいます。いまの米国でプーチンから応援されるというのは、ヒトラーやサダム・フセインに味方されるくらいマイナスなものですから。

池上 竹下元総理に対する「ほめ殺し」を思い出しました。次の総理の座を争っていた竹下登さんが、右翼団体の日本皇民党から「日本一金儲けの上手い竹下さんを総理にしましょう」と街宣をかけられた事件です。

 プーチンからの「援護射撃」には、伏線がありますよね。2月10日にサウスカロライナ州で開かれた支持者集会における、トランプの発言です。

トランプ当選を待ち望む
プーチンと金正恩

佐藤 大統領在任中の昔話でしたね。どの国と明言しませんでしたが、NATO(北大西洋条約機構)の主要加盟国の首脳から「もし拠出金を払わず、ロシアから攻撃を受けたら、米国は防衛してくれるか」と尋ねられて、「守らない。逆に、ロシアに好きなようにするよう伝えるだろう。拠出金は払わなければならないと答えた」と語ったんです。

池上 要するに「GDP(国内総生産)2%の拠出金をきちんと払え」という趣旨なのですが、トランプとしては「俺様は欧州にも、こんなに強いことを言えるんだ」と自慢したつもりだったんです。ところが、その発言を知ったプーチンは瞬時に「これはトランプの失言だ。米国の世論にとってまずいことになる」と考え、側面支援するために「バイデンの当選を望む」と言ったわけですね。

 プーチンとしては、「トランプが当選して、来年1月20日に大統領に就任すれば、即座にウクライナへの軍事支援が止まる。あと1年待てば、全て思い通りだ」という考えです。

佐藤 北朝鮮の金正恩総書記だって、「トランプは『俺が大統領になったら、北朝鮮の核の保有を認める』と言ってるんだから、しばらくおとなしくしておこう」と考えているでしょう。