11月の米大統領選に向けた共和党の候補者選びでは、トランプ前大統領が大差をつけてリードしており、本選ではバイデン大統領との対決が見込まれている。トランプ返り咲きで世界情勢はどう変わるのか。池上彰氏を招いてのスペシャル対談編として、佐藤優氏と池上彰氏が語り尽くした。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、ジャーナリスト 池上 彰、構成/石井謙一郎)
プーチンからの応援は
ヒトラーに味方されるようなもの
佐藤 プーチン大統領は2月14日、ロシア国営テレビに出演して、クレムリン番のパヴェル・サルービン記者のインタビューに答えました。最も話題になったのは、米国の大統領選挙で「トランプよりバイデンの勝利を望む」と語ったことです。理由は「より経験が豊富で、予測可能で、古いタイプの政治家だから」。要するに、手の内は全て見えるから御しやすいという意味でしょう。
池上 その通りですね。それを受けてトランプは、「自分こそがロシアと対決できる人物だと、プーチンが認めたんだ」と宣伝しています。
佐藤 バイデンとしては、思いもよらない変化球が飛んで来て、うまく打ち返せずにいます。いまの米国でプーチンから応援されるというのは、ヒトラーやサダム・フセインに味方されるくらいマイナスなものですから。
池上 竹下元総理に対する「ほめ殺し」を思い出しました。次の総理の座を争っていた竹下登さんが、右翼団体の日本皇民党から「日本一金儲けの上手い竹下さんを総理にしましょう」と街宣をかけられた事件です。
プーチンからの「援護射撃」には、伏線がありますよね。2月10日にサウスカロライナ州で開かれた支持者集会における、トランプの発言です。
トランプ当選を待ち望む
プーチンと金正恩
佐藤 大統領在任中の昔話でしたね。どの国と明言しませんでしたが、NATO(北大西洋条約機構)の主要加盟国の首脳から「もし拠出金を払わず、ロシアから攻撃を受けたら、米国は防衛してくれるか」と尋ねられて、「守らない。逆に、ロシアに好きなようにするよう伝えるだろう。拠出金は払わなければならないと答えた」と語ったんです。
池上 要するに「GDP(国内総生産)2%の拠出金をきちんと払え」という趣旨なのですが、トランプとしては「俺様は欧州にも、こんなに強いことを言えるんだ」と自慢したつもりだったんです。ところが、その発言を知ったプーチンは瞬時に「これはトランプの失言だ。米国の世論にとってまずいことになる」と考え、側面支援するために「バイデンの当選を望む」と言ったわけですね。
プーチンとしては、「トランプが当選して、来年1月20日に大統領に就任すれば、即座にウクライナへの軍事支援が止まる。あと1年待てば、全て思い通りだ」という考えです。
佐藤 北朝鮮の金正恩総書記だって、「トランプは『俺が大統領になったら、北朝鮮の核の保有を認める』と言ってるんだから、しばらくおとなしくしておこう」と考えているでしょう。