「空いた実家をそのまま貸せばいい」とお話しすると、「リフォームが必要なんでしょう?」とか「そもそも大都市近郊だと可能な話で地方では無理なんでしょう?」という反応がかえってくることが多いと語るのは、話題の書『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』の著者である不動産投資家で空き家再生コンサルタントの吉原泰典さん。その質問に対しては「古くても地方でも大丈夫! 貸せます」と多くの方が驚かれるそうです。本連載では、「貸すか売るか自分で使うか」判断の分かれ目はどこなのか? なぜ「そのまま貸す」ことがお勧めなのか? などを解説していきます。

【空き家再生コンサルは知っている】空き家になった実家の売却を勧める話が、なぜ広がっているのか?Photo: Adobe Stock

空き家大国ニッポン! どうする空き家になった実家!? 賃貸派VS売却派の激論トーク

 都会の片隅の居酒屋で「実家をどうする?」の激論が始まっていますーー。

 売却派の言い分はこうです。

「借り手がつかない家なんて持っていても仕方ない」
「買い手が見つかるなら売ってしまえば気持ちも楽になっていいじゃないか」
「持ち続けても固定資産税、修繕費がバカにならないだろう」
「貸すにしてもリフォームとかいろいろお金がかかるはず」

 そして、
「とりあえず、詳しい不動産屋に相談してみたら…」
「とにかく早く売るほうがいい」

 さらに時には、「売却したお金でアパートを新築したらいい」などと話が飛躍することもあります。

 これに対して、賃貸派が反論します。

「借り手がつかないというけど、実際にその家を貸しに出してみたの?」
「買い手が見つかりさえすれば、たとえ100円で売ってしまっても構わないのか?」
「実家の固定資産税は具体的にいくらかかっているの?」
「ひょっとすると今日の飲み代より安いのではないか?」

一体、誰が儲かるんだろうか?

 こうした売却派と賃貸派の激しい応酬は、誰からともなく次のような発言が出ると納まることが少なくありません。

「そもそも、不動産屋に相談しろとか、相場もわからないまま売れとか、売却代金でアパートを建てればいいというけど、それで一体、誰が儲かるんだろうか?

 現在、空き家になった実家の扱いをめぐっては、圧倒的に売却を勧める話が広がっています。そういう発言をしているのは誰なのでしょうか。実家を相続した本人ではなく、不動産業界の関係者がほとんどのはずです。日本中どこにでも大小多数の不動産屋が店舗を構え、商売のタネを探しているからです。

 一方、空き家になった実家の固定資産税が払えず差し押さえにあったという話はほとんど聞きません。むしろ、私のまわりでは実家を貸し出して毎月、小遣い代りの賃料収入があると言う話を聞くことが増えています。一般人の目線で考えると、慌てて売却するより、貸せるものなら貸しておいた方がトクといえるのではないでしょうか。

売却をしたほうが良いケースとは?

 もちろん、次のような例外もあります。

①都内23区や政令指定都市のような相続税評価額の高いエリアで土地付き不動産を相続し、納税のために売却するケース(やむなし売却)
②相続人の間でトラブルになり、売却現金化して遺産分割を決着させるケース

他には、
③個人的にどうしても目先、現金が必要な理由があるケース
④実家との関係や兄弟親族との関係が面倒で、そのような関係から解放されたいケース

などもあるでしょう。

 これらのケースについては、相続した本人が自分軸で判断したのであれば健全な結論に至ったものと考えられます。

買い取り業者のセールストークに注意を!

 しかし、売却の判断が「誰かに相談した結果」である場合、相談の過程において本人以外の誰かの利益を反映したポジショントークの影響を少なからず受けている可能性があります。

 今後、日本は少子高齢化、首都圏への転入超過、新規物件の供給などの影響で「空き家大国」への道を突き進んでいくことは確実です。

 相続したけど空き家になっている実家の問題は、親子、兄弟姉妹、夫婦といった身近な人たちを巻き込んでどこかで必ず浮上してくるでしょう。それゆえ、できるだけ早い段階から正しい知識と情報を得ておくことが重要です。

 不動産の取り引きについて圧倒的に経験値の少ない人がいきなり「固定資産税が上がる」「修繕費がかかる」などと言われても、冷静に判断することは至難の技です。逆に言うと、多くの買取業者はそこを狙って売却をたたみかけてきます。

 もし、相続したけど空き家になっている実家の扱いについて、専門用語とともに負担やコストの話を連発される場面に遭遇したらこう質問してみてください。 「それらは具体的に、いくらくらいになるんですか?」

 ちなみに、私が月8万円で貸している岡山の実家の令和5年度固定資産税は2万9100円です。年間100万円近い賃料収入を稼ぎ出すための負担として、私は喜んで支払っています。