空いた実家をそのまま貸せばいい」とお話しすると、「リフォームが必要なんでしょう?」とか「そもそも大都市近郊だと可能な話で地方では無理なんしょう?」という反応がかえってくることが多いと語るのは、不動産投資家で空き家再生コンサルタントの吉原泰典さん。その質問に対しては「古くても地方でも大丈夫!貸せます」と多くの方が驚かれるそうです。本連載では、「貸すか売るか自分で使うか」判断の分かれ目はどこなのか? なぜ「そのまま貸す」ことがお勧めなのか? などを解説し、「誰もすまなくなった実家」をそのまま貸すためのノウハウを話題の書『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』の中からご紹介していきます。

なぜ「空いた実家」を売ることより、貸すことをお勧めするのか?Photo: Adobe Stock

あまりに「売り」一択の風潮

 不動産投資に関する本はたくさんありますが、誰も住まなくなった実家を片付けて貸すというようなものは見当たりません。むしろ、「空き家」を深刻に取り上げるあまり、誰も住まなくなった実家は早く取り壊したり、売却すべきといった論調が自治体や不動産業者の間では幅を利かせています。

 しかし、そこには大きな誤解とミスリードがあるといわざるをえません。

 例えばある不動産コンサルタントは少し前、雑誌で『空き家は「2023年」に売却したほうがいい理由3つ』として概略、次のように提言していました。

 第一の理由は、前の連載でも紹介した2024年4月から相続登記の申請が義務化されることと、相続した空き家を売却した際の「3000万円特別控除」の適用期限が2023年12月31日までだったということです。

 しかし、相続登記の申請義務化と実家の売却には直接の関係はありません。相続した空き家を売却した際の3000万円特別控除も2027年12月31日まで延長されました。

 第二の理由は、日銀が植田総裁に代わってこれまでの超金融緩和策を一部見直し、住宅ローンの金利が上がりそうだということです。

 ローン金利が上がれば住宅購入にはマイナスであり、売出物件の増加や取引価格の下落が予想されます。これは平均価格が1億円を超えて話題になっている東京都心部のマンション市場には当てはまっても、地方の誰も住まなくなった実家にはほとんど関係ないでしょう。

 さらに第三の理由として、2022年からスタートした国の「マンション管理計画認定制度」により今後、マンション管理の見える化が進むことを挙げています。マンションについてはそういう面もあるかもしれませんが、地方の誰も住まなくなった実家(木造戸建て)とは無関係です。

リフォームの見積もりが高すぎる

 もう一つマスコミの話をさせてください。

 2023年5月29日のNHK「クローズアップ現代」では、「急増!“なんとなく空き家”どうなる税負担! 強制撤去も!?」というタイトルで空き家特集をやっていました。

 空き家法の改正案などを紹介し、従来の「特定空家等」に加えて「管理不全空家」という新しいカテゴリーができたこと、市区町村が空き家対策に向けて活動する民間法人をバックアップしていく動きがあることなどが取り上げられていました。

 翌朝のNHKニュースでも一部の内容が再度放送され、社会全体で空き家をどうするのかという動きがいよいよもう一段加速するのではないかと感じました。

 ただ、この番組で私が気になったのは、都内で古くなった実家を貸そうと思ったけれど、業者に相談したらリフォーム費用が1500万円かかるから諦めましたというケースが紹介されていたことです。

 普通の人はリフォームに1500万円かけて貸すか、それとも売ってしまうかと言われたら、ほとんどは売ってしまうほうを選ぶのではないでしょうか。

 しかし、そもそも普通の一戸建てで1500万円もかかるリフォーム工事というのはどのようなものなのでしょうか。詳細まではわかりませんが、壁や天井のクロスを張り替えたり、床のフローリングを補修したり、屋根と外壁の塗装をやり替えたりしても、そこまでかかるとは思えません。

 可能性があるとしたら、耐震補強工事が含まれているケースです。

 耐震補強工事を行うとなると、壁を剥がして新たに耐震壁をつくったり、基礎と土台、土台と柱などを金物で緊結したり、かなり大がかりな工事になり、それだけで数百万円かかります。

 深読みすると、リフォームに高額の費用がかかるということを強調し、建物を売却したり取り壊したりするほうへ誘導していると言えなくもありません。実際、不動産会社にとっては商売のタネとなる物件(土地や建物)を仕入れる絶好のチャンスなのです。

 実はそこにもう一つ選択肢があります。それが必要最低限の整理とハウスクリーニングだけして貸し出すという方法です。誰も住まなくなった実家を相続した人にとって、ここは一旦落ち着いて考えてみるべきです。

売却には税金の優遇措置があるが、使いにくい

 先ほども触れましたが、空き家の売却を勧める話でよく挙げられる理由が、「譲渡所得の3000万円特別控除」を利用できるということです。

 相続した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、亡くなった人(被相続人)が居住用に使っていた建物を相続した相続人が、その建物(耐震性のない場合は耐震リフォームをしたものに限る)と土地、または建物を取り壊した後の土地を譲渡した場合、譲渡所得から3000万円を控除できます。

 例えば、相続した実家(空き家)を1000万円で売却できたとしましょう。

 昭和の木造戸建てであれば建築費や購入価格が不明ということも多く、取得費は簡易計算で譲渡価格の5%(50万円)です。さらに売却にかかった費用として仲介手数料(36万円+消費税)などを差し引きます。ここではざっくり譲渡所得が900万円になるとします。通常はここに長期譲渡所得(亡くなった人の取得日を引き継ぐので所有期間5年超)として20.315%の所得税・住民税が約183万円かかります。

 これに対して「譲渡所得の3000万円特別控除」が適用されれば所得税・住民税はゼロとなり、約183万円分の得をするというわけです。

 しかし、この特例にはいろいろな要件があり、特に建物とともに売却する場合には現在の建築基準法の定める耐震基準(いわゆる新耐震基準)をクリアするように耐震リフォームを行う必要があります。

 先ほどのNHKの番組もそうでしたが、昭和の木造戸建てで耐震リフォームをするには耐震診断、耐震設計、そして耐震工事が必要となり、手間もコストもかなりかかります。

 この特例を利用するなら基本的には建物を取り壊して更地にしてからではないかと思いますが、その場合は建物の解体撤去が必要で、木造2階建てでも200万円前後はするはずです。また、この特例は相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限が設けられており、相続人が複数いて共有になっていると意見がまとまらないことも考えられます。

 そもそも、税金の優遇措置があるから急いで実家を売却するということでいいのでしょうか。ちなみに、「税金で得する」というのは不動産投資を巡るこれまでの数々のトラブルに共通してみられる鉄板の営業トークです。ほかにも選択肢はいろいろあります。