生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)、「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」橘玲氏(作家)と絶賛されている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

【「ガン」にならずに、長生き】“ハダカデバネズミ”の健康に欠かせない「すごい物質」とは?Photo: Adobe Stock

ハダカデバネズミの奇妙な見た目

 生物の進化の驚異は、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』で書いた「単純なものから始まり、それが絶え間なく変化して、最高に美しく、最高に素晴らしい形態が生じ、今も生じつつある」という言葉に集約されている。

 たしかに、見ていると思わず詩人になってしまうような美しい生物は数多くいる。だが同時に、正直なところ見ていてどうにも心が踊らない生物が数多く存在するのも確かである。

 あまりの醜さに見た途端、息を呑むような生物もいるが、ハダカデバネズミはその最たるものだろう。

 ドブネズミの遠い親戚だが、ある研究者は「ペニスに歯がついたような動物」と表現していて、言い得て妙だと思ったことがある。

 ドイツ西部のある大学で最初にハダカデバネズミを直に見た時にはそんなふうには思っていなかったのだが、いったんそう思ってしまうと、もうペニスがあちこち動き回っているようにしか見えなくなった。

 私は醜さに驚いたと同時に、このネズミに興味を惹かれた。ただ見た目が醜いだけではない。なかなか恐ろしいところのあるネズミで、その特徴的な歯は、ニンジンをひと嚙みで真っ二つにできるともいう。

 それが本当か噓かはわからないが、ほとんどの人は抱いてみるかと言われても拒否するだろう。膝の上にのせてかわいがるなど、絶対にしたくないような動物だ。

長生き、そしてガンにも強い耐性

 見た目から言えば、ハダカデバネズミが動物の中でも特に醜い部類に入るのは確かだが、何が美しいかは見る人次第で変わるものだ。

 生物の研究者にとってハダカデバネズミは非常に価値の高い動物である。

 まず、このネズミは長生きをする。

 三十年以上生きることも珍しくない。より身体の大きいドブネズミが約一年しか生きないのとは大違いである。

 ハダカデバネズミは、人間ならば死んでしまうような酸素の少ない環境でも生きられる。

 ガンになることはまずなく、皮膚には痛覚がない。絶望的に酷い外見を無視してよく観察すると、実は驚くべき特徴を数多く備えた動物であることがわかる。

 私たち人間が学ぶべきところをたくさん持っているのだ。まず間違いなく重要なのは、ガンに対して高い耐性を持っている理由である。鍵を握るのは、ヒアルロン酸という物質だ

 この物質は、人間の医療に応用できる大きな可能性を秘めている。

(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉を編集、抜粋したものです)