家出から1カ月が経過
捜索依頼を引き受けることに

 翔哉さんが家出する理由の見当がつかない渡辺さん夫婦にとっては、事故や事件の可能性も捨て切れませんでした。かといって何をすればいいのか分からず、できる限りの捜索はしましたが全く進展がなく、途方に暮れて私に連絡がきたのです。

 家出人捜しは時間がたてばたつほど見つけるのが難しくなることは経験上知っていました。翔哉さんが失踪して1カ月ほどたっていました。とにかく急がなければならず、その日のうちに渡辺さん宅でお話を伺いました。

 渡辺さん夫婦はこれまで、翔哉さんの思い出の場所・学生時代過ごした場所・友人や異性関係・職場・立ち寄りそうな場所は全て当たったそうです。

 他に何か手がかりになりそうな情報はないか聞きました。家族で共有している写真アプリやクラウドのデータ、カレンダーアプリ、GPS共有アプリなどあれば有力な手がかりになりますが、全く使っていなかったとのことでした。翔哉さんにつながる糸口が全て断たれた空気が流れる中、由美江さんが肩を落として「アプリなんてうとくて…唯一共有していたのは、小さい頃からお年玉やお小遣いを積み立てた銀行のアプリぐらいです」とおっしゃいました。

 私は「今、それ見られますか?」と聞いたところ、「はい」と由美江さんはスマホでアプリを開いてくれました。由美江さんと翔哉さんは銀行アプリのログイン情報を共有しており、互いのスマホで残高や入出金など確認できるとのことでした。早速取引履歴を開いてみると、今日もATMで翔哉さんがカードを使って引き出したようでした。そのATMは渡辺さん宅がある埼玉県春日部市とは遠く離れた、大分市内のコンビニATMでした。そして2日連続で引き出しがあったので、私はすぐに大分のコンビニに向かいました。

 私はその日の深夜にコンビニに到着し、レンタカーで張り込みを開始しました。そして張り込み開始2日目の正午過ぎに翔哉さんは徒歩で現れました。コンビニATMでお金を引き出して弁当と飲み物を買った翔哉さんを尾行し、水産物加工現場で働いていることと、その会社の寮にいることを確認して寿史さんに報告しました。