美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

ユディトⅠ グスタフ・クリムト『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

なぜ「恍惚の表情」で「生首」を持っているのか?

こちらは、クリムトの「ユディトⅠ」という作品です。これはどんな絵に見えますか?

──どんな絵…。そうですね、裸の女性が官能的で、表情はポーッとしているような…。これも恍惚って感じなのかな? あとは…とりあえず立派なアフロだなぁと。

はい、とても美しいアフロですが、そこはいいです(笑)。

──やっぱり(笑)。

おっしゃるように女性が恍惚の表情でこちらを見据えていますが、この絵にはもう一つ顔があるのはわかりますか?

──え、もう一つ顔!? う~ん…。あ! もしかしてこの右下、人の頭ですか?

ピンポーンです。これは男性の頭で、それを彼女が抱えていますね。そして、この頭は生首なんですよ。

──な、な、生首! ドスン(尻もち)。生首持っているんですか? この人!

実はこの絵には物語があるんです。彼女は旧約聖書に登場する夫を亡くした若く美しい女性ユディト。

彼女の住むユダヤの街ベトリアは敵軍であるアッシリアに包囲されてしまいます。

陥落も時間の問題となったとき、彼女は意を決して敵の司令官ホロフェルネスの陣地に赴きました。

そして、いわゆる「色仕掛け」で彼を泥酔状態にし、そのすきに首を斬り落とし、街を救った! という物語なんです。

──なんと、彼女が首を斬ったんですか(汗)。でもそれにしてはあんまり動揺していないというか、なんか悦に入っているというか…。

さすがです! 国のためとはいえ殺人を犯した後にもかかわらず、恍惚の表情を浮かべ、胸がはだけたユディトからはむせ返るようなエロスが感じられるような気がしませんか?

──ほんとですよね! 僕のイメージは「セーラー服と機関銃」ですね!

カ・イ・カ・ン…って何言わせるんですか!(笑)

──まさか言ってくれるとは(笑)。それにしても彼女はいつもこんな風に描かれるんですか?

いえいえ、通常、彼女の絵は下の絵のような感じで国を救った英雄として凛と描かれるんです。

「ホロフェルネスの首を持つユディト」ルーカス・クラナッハ『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

ただ、クリムトが生きていた時代はファム・ファタールと呼ばれる男を破滅に導く女性像が流行っていて、クリムトもその流行に乗じてこのように描いたんでしょうね。

──なんと! そんな流行があるんですか!

はい! 当時は退廃的な世界観が流行っていて、そのイメージにぴったりと合うモチーフだったんでしょうね。

──はぁ~。ファムファタール…。惑わされてみたいような、みたくないような…。

でも首を斬られるのは困りますね(笑)。

──ですね(笑)。

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)