ここで、じつは仮面ライダーは「正義の味方」とは呼ばれないという事実が重要になってくる。第5~13話の冒頭、主題歌の終わりに重ねられるナレーションは次の通りだ。

 仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは、世界制覇を企む悪の秘密結社である。仮面ライダーは、「人間の自由のために」ショッカーと戦うのだ。(「」は著者)

 この通り、仮面ライダーは「正義」のために戦うのではない。「人間の自由」のために戦うのである。このことの意味は追って考えるとして、「悪」と名指されているショッカーの「秘密結社」というあり方は、悪のあり方としては新たなものだっただろう。いや、重要なのは新しさではなく、その後、1990年代にはオウム真理教といった形で現実のものとなり、『新世紀エヴァンゲリオン』によって物語的な想像力の燃料となって、21世紀には私たちの政治と文化を深く蝕んでいった陰謀論的な悪のあり方の先駆けであったことだ。

『シン・仮面ライダー』に
織り込まれた宗教二世問題

 2023年、庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』が公開された。この作品は、オリジナルのシリーズだけではなく石ノ森章太郎の原作へのリスペクトにあふれつつも現代的かつ庵野秀明らしいアレンジが加えられた作品で、公開直後の評価は少々割れたものの、私は後からじわじわと「来る」、忘れられない作品になったのではないかと感じている。

 そのような印象と評価はともかく、『シン・仮面ライダー』は、どれくらい意識的かは分からないが、元総理大臣の安倍晋三銃撃殺害事件と、それによって明らかになった政権与党と旧統一教会との関係が社会を揺るがした日本の雰囲気を捉えたものになっていた。つまり、一言で言えば「宗教二世問題」が織りこまれていたのだ。