1979年から放映された『機動戦士ガンダム』。以後、連綿と続くガンダムシリーズの発端だが、本作は日本アニメのひとつの転換点となった。それまでと一線を画す「ガンダム」のリアリティとは。本稿は、氷川竜介著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。
リアリティを生み出す
ガンダムの世界観
『ガンダム』の「リアリズム」を検証しましょう。そもそも巨大な人型ロボットは、登場するだけでリアリティを損ねかねない存在です。だからこそ子ども向けの「ヒーロー」としての特権性をあたえられてきたわけです。ガンダムはそれを改めて「工場で生産される製品(兵器)」と位置づけ直しました。
富野由悠季監督の世界観構築は論理的で、現実味重視です。富野監督は「戦争を描く」が動機や主目的ではなかったとさえ語っています。巨大な人型兵器を開発するには巨費が必要だ。だとすると、人型兵器を登場させられる理由は、戦争の道具しかない。だから戦争を描くことになり、現実的に考えればそうなるのは必然だと言うのです。
”モビルスーツ”という呼称は、SF小説の古典「宇宙の戦士」(R・A・ハインライン作)に登場する2メートルサイズの装甲強化服”パワードスーツ”がヒントになっています。強化外骨格とも呼ばれる歩兵用装備で、重装甲で防御力を高め、人体パワーを増幅するコンセプトです。とは言え、ガンダムはマジンガーZと同様18メートル(成人男性の約10倍)に設定されました。「巨大ロボット」のカテゴリーでないと、玩具ビジネスが成立しないからです。その結果、玩具としての価値(プレイバリュー)の変形・合体機構も重視されました。
戦闘機コア・ファイターの主翼を折りたたみ、上半身(Aパーツ)と下半身(Bパーツ)と合体してパイロットがそのままガンダムを操縦、他の機体とも換装できる機構を用意しました。そこには兵器的な根拠はありません。
そんなオモチャ感覚のメカなのに、なぜか「リアリティ(リアルな感覚)」が感じられる。
そこにも「世界観」が作用しています。たとえば「両眼に相当するパーツ」があるのは主役メカのガンダムに限られている。味方側のガンキャノンはゴーグル、ガンタンクはキャノピー状のヘッドで、ガンダムの生産タイプ・GM(ジム)もその流れをくんでいます。敵側に至ってはすべてモノアイで統一されています。両眼があって「V字型アンテナ」の装飾がついたガンダムが登場すると、頂点に立つ主役だと一瞬で識別できる。こうした視覚的な配慮もまた、「観客が作品世界をどう把握するか」を重視している点で、「世界観主義」を支える一部なのです。
こうしてヒーローロボットとリアルロボット、双方の要素をそなえたガンダムは、虚実をブリッジする境界的な存在となって、破格の価値を獲得することになりました。