日本アニメの革新Photo: 123RF

1979年から放映された『機動戦士ガンダム』。以後、連綿と続くガンダムシリーズの発端だが、本作は日本アニメのひとつの転換点となった。それまでと一線を画す「ガンダム」のリアリティとは。本稿は、氷川竜介著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

リアリティを生み出す
ガンダムの世界観

『ガンダム』の「リアリズム」を検証しましょう。そもそも巨大な人型ロボットは、登場するだけでリアリティを損ねかねない存在です。だからこそ子ども向けの「ヒーロー」としての特権性をあたえられてきたわけです。ガンダムはそれを改めて「工場で生産される製品(兵器)」と位置づけ直しました。

 富野由悠季監督の世界観構築は論理的で、現実味重視です。富野監督は「戦争を描く」が動機や主目的ではなかったとさえ語っています。巨大な人型兵器を開発するには巨費が必要だ。だとすると、人型兵器を登場させられる理由は、戦争の道具しかない。だから戦争を描くことになり、現実的に考えればそうなるのは必然だと言うのです。

 ”モビルスーツ”という呼称は、SF小説の古典「宇宙の戦士」(R・A・ハインライン作)に登場する2メートルサイズの装甲強化服”パワードスーツ”がヒントになっています。強化外骨格とも呼ばれる歩兵用装備で、重装甲で防御力を高め、人体パワーを増幅するコンセプトです。とは言え、ガンダムはマジンガーZと同様18メートル(成人男性の約10倍)に設定されました。「巨大ロボット」のカテゴリーでないと、玩具ビジネスが成立しないからです。その結果、玩具としての価値(プレイバリュー)の変形・合体機構も重視されました。

 戦闘機コア・ファイターの主翼を折りたたみ、上半身(Aパーツ)と下半身(Bパーツ)と合体してパイロットがそのままガンダムを操縦、他の機体とも換装できる機構を用意しました。そこには兵器的な根拠はありません。

 そんなオモチャ感覚のメカなのに、なぜか「リアリティ(リアルな感覚)」が感じられる。

 そこにも「世界観」が作用しています。たとえば「両眼に相当するパーツ」があるのは主役メカのガンダムに限られている。味方側のガンキャノンはゴーグル、ガンタンクはキャノピー状のヘッドで、ガンダムの生産タイプ・GM(ジム)もその流れをくんでいます。敵側に至ってはすべてモノアイで統一されています。両眼があって「V字型アンテナ」の装飾がついたガンダムが登場すると、頂点に立つ主役だと一瞬で識別できる。こうした視覚的な配慮もまた、「観客が作品世界をどう把握するか」を重視している点で、「世界観主義」を支える一部なのです。

 こうしてヒーローロボットとリアルロボット、双方の要素をそなえたガンダムは、虚実をブリッジする境界的な存在となって、破格の価値を獲得することになりました。

 これらを「メカニカルデザイン」のクレジットで担当したのが、大河原邦男です。竜の子プロダクション出身で、美術部に配属された直後、『科学忍者隊ガッチャマン』(72)で上司の中村光毅(『ガンダム』の美術設定)に命じられ、日本初の専業メカニックデザイナーとなった人物です。

 70年代中盤のタツノコ退社後はフリーランスとして数多くのロボットデザインを手がけ、アニメ作画に適したシンプルな形状と、商品としての立体感・存在感を巧みに結びつけるノウハウを確立。これが放送後のプラモデル展開時、敵側ふくめての商品化が進んだときに大きなメリットをもたらしました。富野監督によるラフスケッチに基づくメカも多いのですが、三次元的な魅力を成立させたのは大河原デザインの功績です。

『戦争論』『最終戦争論』など
バックにある戦争の教養

「世界観」は「AをBのように解釈する」という「見立てのプロセス」を含んでいます。デザインされた形状を、戦闘シーンでどう運用するのか。『ガンダム』は演出レベルでも世界観を重視することで、リアリティを高めています。ことに主役ガンダムには兵器・戦士・主役と、全方位的な「見立て」が集約されています。だから四十数年経過したいまでも現役を継続する、別格な価値を放っているのです。

 たとえばガンダムの頭部バルカン砲には、レシプロ戦闘機のイメージが投影されています。二足歩行機能を備えているため、運用面は戦車に近いものがあります(劇中でも「陸戦兵器」と明言)。それでいてヒーロー的な必殺武器もそなえている。背中には高熱で敵を切り裂くビーム・サーベルを2本装備して近接戦闘に対応。遠距離用にはビーム・ライフル、ハイパー・バズーカなど射撃武器を使い分け、機動隊の盾のようなシールドも装備しています。

 この装備の多面性で、剣豪の特殊な剣術(二刀流やツバメ返しなど)や、孤独に狙いをつけるガンマンなど、娯楽映画で培われてきたイメージの「見立て」も可能となり、兵器としての無機質さにヒーロー性が加算されたわけです。