変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

「ジョブ型人事制度を入れたら部下が考えなくなって成果が出なくなった」とぼやく管理職に共通する残念な特徴とは?Photo: Adobe Stock

ジョブ型人事制度は万能薬ではない

「競合他社が導入したから」「人事コンサルに導入を勧められたから」という理由で、ジョブ型人事制度が採用されることがあります。残念ながら、こうした動機で導入された制度がうまく機能することは稀だといっても過言ではないでしょう。

 どんな人事制度もそうですが、どんな組織のどんな問題でも解決してくれるような万能制度は存在しません。一時的に何らかの成果が出たとしても、本質的な課題解決にはつながっていない可能性が大きいことを理解しましょう。

 現に2000年初頭に私が勤めていた米国企業では、「イノベーションを生まないジョブ型人事制度は限界を迎えている」という理由で、あえてジョブディスクリプションを明確に定義しないチームを社長直下に作る、といった試行がなされていました。

各企業にあった人事制度の選定が重要

 人事制度は組織の目的や業種によって、その効果が大きく変わってきます。役割と責任を明確に定義することが効果的なオペレーショナルな職種では、ジョブ型人事制度が比較的有効に機能します。この明確さが、採用や育成を効率化して組織運営をスムーズにするという効果をもたらします。グローバルでの人材獲得が求められる企業では、ジョブ型人事制度に移行することは必然ともいえます。

 逆に、イノベーションが求められる職種においてこの制度が採用されてしまうと、詳細なジョブディスクリプションが創造的な発想を生む柔軟性や自主性を制限してしまう可能性があります。

 どの人事制度を選ぶかは、企業が目指すべき方向性と密接に関連しています。導入前には、その制度が企業文化や戦略に適合するかを十分に検討し、必要に応じてカスタマイズすることが重要です。人事制度は適切に設計され運用されなければ、企業の成長の障害にさえなりうるため、決して流行りや競合他社に追随する形で導入するものではありません

アジャイル仕事術を実践してイノベーションを起こす

 かつては、所属している組織のミッションを達成するために、個々が定義された範囲内で最大限のパフォーマンスを発揮することが求められていました。

 しかし、デジタル革命により個々人でも実現できることの範囲が大幅に広がった今日では、各人が自らミッションを設定して、他者と共創することで成果を出すことが求められます。

 こうした時代に成果を出すためには「アジャイル仕事術」が効果的です。このアプローチでは、個々の役割や責任を固定するのではなく、柔軟性と適応性、そして他者とコラボレーションして価値を生む共創力を重視します。プロジェクトごとにチーム構成や役割を最適化し、状況に応じて迅速に対応することで、イノベーションや成長を促します。 

 結局のところ、どの人事制度も一つのツールに過ぎません。アジャイル仕事術を活用することで、人材が自らの強みを活かし、組織全体の成果につながる創造的な活動を行えるような環境を整えましょう

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。