日本人が失いつつあるもの、この国の最大の弱点
岡野氏は今、米ユタ大学教授(細胞シート再生医療センター長)と女子医大の先端生命医科学研究所特任顧問を兼ね、日米間を行き来している。素人だった筒井さんの中に見た挑戦する情熱について、こんな感慨を抱いている。少し長いが、日本人が失いつつあるものについて触れているので、ここで紹介しよう。
「優秀な人たちはね、やれることをやるわけですよ。だけど、やれないけどやらなくちゃいけないことってあるんです。それは5年後、10年後に向けてね。そういうことが今の日本人にはできなくなっている。そこが今、この国の最大の弱点にもなっている。
やれることはみんなやるんです。日本人は頭がいいし、勤勉だし、負けずに良い仕事をやりますよ。だけど、やれることだけやっていても、この国は置いていかれてしまう。これをやって本当にできるかどうかという難しい問題に対して、情熱を持ってやれる人は実に少ない。
筒井さんはそういう面を持っていたということです。真のチャレンジをしないと斬新なことは始まらない。僕は普段からそういうことをやれと、学生には言っています。そういう人をちゃんと育てることこそが重要だと思っているんです」
そうした純粋な挑戦する心、あきらめない精神は、実はどんな人間の中にも潜んでいるのではないか。それを引き出すのは、絶望しない自分と支える家族なのだ、と私は思う。