原監督への掌を返したような
「冷遇」に思い当たること
プロ野球・読売巨人軍の原辰徳監督が突如退任しました。巨人軍歴代監督として1位の1291勝という輝かしい実績のわりに、GM 昇格もならず、付いた肩書は「オーナー付特別顧問」。これは、名誉職という言い方が妥当でしょう。
原氏自身の思いはともかく、巨人軍の掌を返したような「冷遇」の原因として、ずっと「あの記事」のことがフロントの人々の心に小骨のように刺さっていたこともあるのではないかと思うのは、私だけでしょうか。しかも、かつて私が『週刊文春』の指揮官だった2000年代前半に経験したジャニーズ裁判と、その後の展開がとても似ているのです。
あの記事とは、2012年、週刊文春が報じた「原監督1億円恐喝事件」です。原氏が反社会的勢力に脅されて1億円支払ったという報道をめぐって訴訟となり、その事実を最高裁までもが認定したにもかかわらず、プロ野球のコミッショナーも巨人軍フロントも原氏をかばい続けました。最終的には文春が勝訴しました。
この事件の経緯は複雑なので、ここでは要約に留めます。2006年、原氏が関係を結んだ女性の日記の内容を理由にある人物に恐喝され、フロントにも内密に金銭を支払いました。そして、2009年にもう一度その人物に脅迫されたのです。
原氏は被害者であり、本来ならそうした立場の人のプライベートをメディアが報じるのは名誉棄損になりかねません。しかし、彼を恐喝した人間がその数年前まで現役暴力団員であったため、争点は野球協約の条項に抵触するかどうかという問題に発展しました。
プロ野球関係者は、野球協約第180条で反社会的勢力との交際を厳しく禁じられており、違反した場合、コミッショナーは該当する球団や個人を1年間の失格処分または無期の失格処分とすることを定めています。実際、それを理由に永久追放された「選手」もいます。
読売のフロントもこの点を重視しました。読者でこの事件を覚えている人も、週刊文春と読売巨人軍(というより読売新聞社)との間で激しい前哨戦があったことは、ほとんど知らないと思います。