政府が「デマ」を取り締まるのは愚かな行為
国が、ワクチンに関するデマやフェイクニュースの「対策」に本格的に乗り出した。
4月24日に公表された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定案によると、政府はワクチン接種や治療薬・治療法に関する科学的根拠が不確かな情報等、偽・誤情報等に関してモニタリングをして、国民のメディアリテラシー向上のために各種媒体を用いて「啓発」をしていくという。
4月23日の参議院財政金融委員会で、内閣府がワクチンの接種推進のために3200万円をかけてYouTuberを起用した動画9本を作成したことを明らかにしたが、このような形で、ワクチンデマやフェイクニュースを打ち消していくというわけだ。さらに、対策は「削除依頼」や「発信者情報開示請求」にも及ぶ。
つまり、これはいよいよ政府がちまたに氾濫する新型コロナやワクチンに関する情報の「統制」を始めたというわけだ。
そう聞くと、「素晴らしいじゃないか!反ワクや情報弱者がSNSで拡散している陰謀論に扇動される人も増えているので厳しく取り締まるべきだ」と拍手喝采の人も少なくないかもしれない。
そんな気分に水を差すようで恐縮だが、個人的には「ひどい悪手」という印象しかない。これによって偽・誤情報が消えるわけなどなく、むしろこれまで以上に氾濫する恐れもある。
国が「良かれ」と思ってやることが、なぜそんな逆効果になるのかというと、そこにどんな「正義」や「エビデンス」があったところで、「国家権力が個人の言論を握りつぶしている」という民主主義的に最悪なことをしているからだ。
政府が「デマ」を取り締まれば、政府の主張を信じている人たちは、胸がスカッとして正義が実現されたと感じるだろう。しかし、世の中にはもともと政府の主張を疑っている人も多い。彼らからすれば、「言論封殺」以外の何者でもないので、さらに不信感を強めていく。また、「デマを流した」と断罪された側の人たちは、国への怒りと反発心が強まり、より過激な言動をしていく恐れもあるのだ。
要するに、デマだろうがフェイクニュースだろうが、個人の言論に国家権力が介入するということは、延焼している森林火災に、ヘリコプターで上から灯油をかけるのと同じくらい「愚かな行為」なのだ。